お互いが居間の座布団へ座ると、これまでに起こった出来事を話せと言うものだから、洗いざらい全てのことを喋ったんだ。
私が話し終わると、神主は大きくため息をついて言った。
「おたくから地鎮祭の依頼があった時、初めは断ったんだよ。
何処に依頼しても大抵は断られるだろうとね。
あの場所がよくないことは我々の間で有名だから。
でも、おたくの担当者は頑として聞かなかった。
そんなのは俗言だと云わんばかりにね。
だから、他の仲間に迷惑がかかるくらいならと引き受けたんだよ」
私は心苦しく思うと同時に、仕方がないとも思った。
あんな大規模の工事に地鎮祭をやらないという選択肢はない。
なぜなら、我々は地鎮祭をやったという事実が欲しいだけなのだから。
もちろん、仮にやっていなかったとしても結果は変わらない。
ただ、やらなければこうして神主に話を伺うこともないだろうから、やはりやっておくが良いのであろう。
神主は見せたいものがあると言って、居間の隅にある古い箪笥から一冊の資料を取り出した。
そこには、あの山間部にまつわる土地の変遷が事細かに記されているという。
資料によると、あの土地にはかつて一つの集落があったそうだ。
集落の住人は外部との接触がほとんどなく、自給自足の生活をおくっていたらしい。
それが戦後まもなくして、ダムの建設が決まったのだ。
集落は猛反対した。
だが、政府は金をばらまき、従わない者には片っぱしから圧力をかけたので、次第に住人は減っていったそうだ。
そうして、ついに一人の住人を残して集落の人間はいなくなった。
唯一残ったその人物とは、集落に最も長く住む老婆だったという。
老婆は、どんなに大金を積まれても、酷い圧力をかけられても屈することはなかった。
そこで政府は最終手段にでた。
老婆の住居を無視してダムを建設する取り計らいとしたのだ。
そうすることで、自ずと集落を出て行くより仕方なくなるよう仕向けたのだろう。
その通達を受けた老婆は、ようやく建設を認めた。
ただし、老婆は集落を出るまでに10日間待ってほしいという条件をつけたそうだ。
政府は容易い御用であると老婆の条件を快諾した。
条件の期日になり、政府の遣いが立ち退きの挨拶に老婆の住居を訪れた際、老婆はこんなことを言ったという。
「この土地一帯に呪いをかけた。今後いかなる人間も住めなくなるだろう」
その場に居合わせた人間は、最後の悪あがきと冷笑して誰も相手にしなかった。
それから、政府は満を持してダムの建設に取り掛かったのだった。
しかし、いざ工事が始まると、次々に不可解な出来事が起こったという。
現場の作業員や行政の視察者が立て続けに原因不明の死をとげただけでなく、建設に携わる人間の半数以上が眩暈や頭痛などの体調不良を訴えたのだ。
作業員の間には、誰とはなしに「老婆の呪いだ」と囁かれるようになった。
現場の責任者は建設を中断し、この異常事態を直ちに政府へ伝えた。
だが、政府はその報告を無視した。
そのような超常現象など起こるはずがないと。
とにかく人員を補填して建設を続行しろとの命令が下された。
建設は再開されたが、作業員の士気は目に見えて低下していたそうだ。
そして、またしても作業員の一人が謎の死をとげたのだった。
建設業者は撤退を決意した。
これ以上大切な従業員を失う訳にはいかないと。
この噂は同業者にたちまち広まったという。
政府が他の建設業者へダムの建設を依頼するも、すべからく断られた。
行き場を失った政府は、ダムの建設を断念するしかなかった。
それから、今日まで手付かずの土地とされている。
























今日いちばんよかった
映像化してほしい
引き込まれました。
引き込まれました
よかった。怪異の実態は直接そこに現れる事も無く、けど情景はしっかり目に浮かんで怖かった。
地味に怖い
その婆さん何者だよ
強すぎじゃね?
やっぱり怪異はこのくらいの書き方の方が映えるね
超常現象かどうか微妙なラインでとどめておくのがベスト
老婆がどんな呪いをかけたのかを明確には言わないのも良かった
そこで神主が人形を使ったどうたらこうたらの呪いですと説明してたら正直萎えてた
この作品を正当に判断できる評価者がいることを切に願う。今まで数々の怪談を目にしてきたが、この作品はクオリティが違う。文学作品としての気品すら感じる。
これ読むと他の話が幼稚に見える
箱に入った人形と鏡が、「後遺症ラジオ」の〃おぐしさま〃で再生されてゾッとした
この話は有り得ない
あの時代だったらこの婆さんは呪いをかける前に居なくなっているはずだから
言い方変だけど、よく出来てるなぁと思った
だからタイトルの「向かい合わせの怪異」というのにも意味があると思うんだけど、考えてもわからない。何が向かい合わせなのかわかる人いる?
もう小説家デビューしていいクオリティ。
引き込まれた。
読み応えありました。
過去似たような怪談を目にしましたが、クオリティの高さではトップクラスですね。
難をいえば、タイトルで損をしていると思います。
私の想像力が不足していることもありますが、どなたかも指摘していたとおり、「向かい合せの怪異」とした理由と根拠がいまいちわかりにくい点でしょうか。
本文を読み進むうちに、なんというタイトルだったかすら忘れてしまうほど優れたストーリ展開なので、単純にもったいないなぁと思った次第です。
サトウと友人の幻覚怖っ
あもすっごぃ。
今まで見た中で1番文章力が高い。プロの小説家かと思いました。
恐怖は快感だが、ビックリするのは不快。
文章ホラーのいい所は映像ホラーみたいにデカい音と視覚効果でビックリさせて満足する駄作が無い所だな
いい作品でした。