いや、仕事に没頭することで忘れたかっただけなのかもしれない。
それでも、決して忘れることはできなかった。
どんなに自分の作業に打ち込むよう努めたところで、脳裏に焼きついた人形の顔が心を支配する。
それが一日中続くのだ。
どうすることもできないまま。
そんな中、サトウは姿を消したのだった。
一通りの話を聞き終えた私は、どう言葉を返してよいか分からなかった。
誰だって、こんな話を聞かされたら同じような心境になるだろう。
私がまごついているうちに彼が口を開いた。
「今日限りで辞めさせていただきたい」
彼の気持ちを考えれば無理もない。
むしろよく今日まで続けてくれたものだ。
だけど、はいそうですかと言う訳にもいかないんだ。
何度も言うように、人手が足りていないんだから。
私は少しでも彼を長く引き留めようと思って、給与を上乗せする話を持ち出した。
だが、彼は首を横に振った。
「サトウと同じ末路を辿らせるつもりですか」
私は何も言えなかった。
先ほど聞いた話が頭をよぎる。
それに、本人が辞めたいと申し出ているのに続けさせるのも酷だろう。
今思えば、ここで彼の意見を素直に聞き入れてやるべきだったんだ。
だけど、仕事人間だった私は再度引き留めてしまった。
一日でいい。せめて明日まで来てくれと頼んだ。
彼は悩んでいたが、「明日までなら」と渋々引き受けてくれた。
もう、何度もお礼を言ったよ。申し訳ないってね。
私は事業が暗礁に乗り上げるのも時間の問題だと感じたよ。
彼が管理室から出て行こうとした時、こちらを振り返って言ったんだ。
「ここ数日、私も誰かに見られているような気がするんです。
働いているときも、家に帰ってからも」
これが、彼と交わした最後の言葉だった。
翌日、彼が姿を現すことはなかった。
皆は仕事が辛くて辞めたと考えていたことだろう。
これまでに辞めていった人間は多くいたから、誰も不思議に思う者はいない。
私は現場に断りを入れて、サトウの時と同じように彼の自宅アパートへ伺ってみることにしたんだ。
今度は部屋の鍵が閉まっていたから、大家に事情を説明して開けてもらうと、部屋の中は思いのほか綺麗に整頓されていた。
大家が「彼は礼儀正しくて家賃を滞納したこともないのに」と首をかしげるのも無理はない。
私は真っ先に書置きのような物がないか目で探していた。
サトウも書置きは残していたし、礼儀正しい彼なら尚更あるような気がしたから。
だが、どんなに探してもそのような物は見当たらない。
結局、彼がいなくなった事実以外は何も分からなかった。
前日に続いて警察に探索願を依頼するのは気が引けたよ。
ただ、探索対象者の実家や友人などに連絡をとってもらえるのはありがたかった。
いったい、どのツラをさげて親御さんに事情を説明するというのだ。
私は警察とのやり取りを済ませてから、重い足取りで車に戻った。
車の運転席に腰をおろして小休憩をとっていると、不意にあることを思いついた。
地鎮祭の最中に倒れた神主だ。
神主なら何か分かるかもしれない。
私は現場に引き返して管理室にある名簿から神主の所在地を確認すると、急いで向かうことにしたんだ。
目的の神社に着いてから、境内にいた巫女に取次いでもらい早々に神主と会うことが出来た。
私が件の現場指揮官であることを伝えると、神主は露骨に嫌な顔をしたが「こちらへ来なさい」と奥の居間へ案内してくれた。
























今日いちばんよかった
映像化してほしい
引き込まれました。
引き込まれました
よかった。怪異の実態は直接そこに現れる事も無く、けど情景はしっかり目に浮かんで怖かった。
地味に怖い
その婆さん何者だよ
強すぎじゃね?
やっぱり怪異はこのくらいの書き方の方が映えるね
超常現象かどうか微妙なラインでとどめておくのがベスト
老婆がどんな呪いをかけたのかを明確には言わないのも良かった
そこで神主が人形を使ったどうたらこうたらの呪いですと説明してたら正直萎えてた
この作品を正当に判断できる評価者がいることを切に願う。今まで数々の怪談を目にしてきたが、この作品はクオリティが違う。文学作品としての気品すら感じる。
これ読むと他の話が幼稚に見える
箱に入った人形と鏡が、「後遺症ラジオ」の〃おぐしさま〃で再生されてゾッとした
この話は有り得ない
あの時代だったらこの婆さんは呪いをかける前に居なくなっているはずだから
言い方変だけど、よく出来てるなぁと思った
だからタイトルの「向かい合わせの怪異」というのにも意味があると思うんだけど、考えてもわからない。何が向かい合わせなのかわかる人いる?
もう小説家デビューしていいクオリティ。
引き込まれた。
読み応えありました。
過去似たような怪談を目にしましたが、クオリティの高さではトップクラスですね。
難をいえば、タイトルで損をしていると思います。
私の想像力が不足していることもありますが、どなたかも指摘していたとおり、「向かい合せの怪異」とした理由と根拠がいまいちわかりにくい点でしょうか。
本文を読み進むうちに、なんというタイトルだったかすら忘れてしまうほど優れたストーリ展開なので、単純にもったいないなぁと思った次第です。
サトウと友人の幻覚怖っ
あもすっごぃ。
今まで見た中で1番文章力が高い。プロの小説家かと思いました。
恐怖は快感だが、ビックリするのは不快。
文章ホラーのいい所は映像ホラーみたいにデカい音と視覚効果でビックリさせて満足する駄作が無い所だな
いい作品でした。