支那からのアンティーク電話
投稿者:ねこじろう (157)
「ねえ、これ近所の骨董屋で買ったんだけど」
散歩から帰ってきた洋子が、やや興奮気味で言った。
ソファーで寝転がっていた俺はやれやれと半身を起こし、居間入口前に立つ彼女に視線をやる。
洋子のアンティーク好きには最近少々辟易していた。
まあ自分の稼ぎの範囲内でやっているから、あまり強くは言えないのだが。
だが彼女が大事そうに両手で抱えているものに視線をやった途端、俺の心拍数は一気にマックスになる。
そして思わず「嘘だろ!?、まさかそんなことが」と上ずった声を漏らした。
洋子が両手で大事そうに持っているもの、、
それは俺が決して忘れることは出来ないもの。
室内にいそいそと入ってきた彼女はそれを、キッチンテーブルに置いた。
本体に細かな金属細工がされ黄金色に鈍く輝きを放つそれは、一台のアンティークな電話。
隣に立つ俺に対して、彼女はちょっと誇らしげに説明しだす。
「これって元々大昔に中国で使われていたものなんだって。
店主さんが言うにはすごく珍しいもので大切にしているとある日突然ベルが鳴り出して、電話に出ると一番会いたい人と話せるんだって。
ねえロマンチックだと思わない?
それが巡りめぐって日本のあそこの骨董屋の店頭に並んでいるなんて、すごい巡り合わせだよね。
これって、、」
彼女の話を最後まで聞かず俺は「お前、なんでこんなもん買ってきたんだよ」と怒鳴ると、それをテーブルから持ち上げ思い切り床に叩き付けた。
電話は派手な音を立てて壊れ、転がる。
「ちょっと、何すんのよ!これ、高かったのよ」
怒り心頭の彼女が俺の胸を2、3回叩くと、受話器が外れ部品のいくつかが外れている電話を懸命に拾い始めた。
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結局その日は寝るまで洋子は俺と口をきかなかった。
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