憑依【ひょうい】
投稿者:ねこじろう (156)
MCのYは生唾をゴクリと飲み込むと、続けた。
「信じられないことなんですが、犯人は自宅に帰ると被害者の手足を家の寸胴で朝まで煮込んで食べ、その後自ら命を絶ったんです」
ざわつくスタジオ内。
それから画面は切り替わり、犯人女性の顔写真が映し出された。
スタジオ内はさらにざわつく。
長い黒髪に面長で色白な顔。
特徴的なのは狐のような吊り上がった細い目。
笑みを浮かべてはいるが目は笑っておらず、左右の黒目が各々違う方を向いていた。
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「おいおいS市といったら隣の市じゃないか?
しかも犯人は女性で、遺体の手足を食ってたんだと、、、
全く怖い世の中になったもんだ」
食卓テーブルの前に座る良輔が、テレビを見ながら一人呟く。
すると彼の隣に座る中学生の長男良治が、箸に挟んだ天ぷらの一品をまじまじと見ながら口を開いた。
「なんだこれ?」
前に座る小学生の良太も「ええ!どれどれ?」と言いながら立ち上がり覗き込む。
その日の食卓は天ぷらだったのだが、良治は今自分が半分口にしたものが何の天ぷらなのか分からないようだ。
食卓の向こうの台所にいる妻の愛美は銀色のボール容器を片手に、白い顔に張り付いたような笑顔でその様を見ている。
最近、良輔は妻のあの笑顔になんとなく違和感を感じていた。
どこか人間味がなく人工的な何と言ったらいいのだろう、それは例えていえば能面のような笑顔。
目が笑ってなくて、ただ口角を形だけ上げているのだ。
すると唐突に愛美が口を開いた。
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