「他の部屋も行こうぜ」
剛がそう言った時、天井からミシッと音がした。明らかに誰かが二階の部屋を歩いている音だ。
「え、今の音って……」
怯える翔太をよそに、剛は目を輝かせて部屋を飛び出した。
「二階だ!二階に何かいる!」
「あ、ちょっと剛さん!俺二階は行きたくないですよ!」
「じゃあお前は下で待ってろ!」
剛は今にも崩れそうな階段をひょいひょいと登って二階に行ってしまった。
「も〜……」
手持ち無沙汰になった翔太は、玄関から見て左手にある和室をちらっと覗いた。
小ぢんまりとした質素な和室だが、畳もそこまでダメージがなく、まだそのまま使えそうな綺麗さだった。
なんとなく興味を持って入ってみると、奥の長押に古そうな遺影がずらっと飾ってある。
しかしいずれも、何故か顔の部分が黒いスプレーのようなもので塗り潰されていた。
「……気持ち悪……」
翔太は妙な寒気を感じ、和室の縁側からそのまま外に出た。
剛はまだ二階から戻ってこない。
(ここで大声で呼んだら近所の人が気づいちゃうよなあ……)
そんなことを考えていると、二階からおーいと声が聞こえた。
顔を上げるとベランダに立つ剛と目が合った。
「え、つ、剛さん、なんでそんなとこに」
「翔太、ちょっと二階上がってこい!すごいモンがあるぞ!」
剛はそれだけ言うと顔を引っ込めてしまった。
「いや、二階は行きたくないって言ったのに……」
その時。
「ぎゃああああああ!!!」
けたたましい叫び声が響いた。剛の声だ。
「剛さん!?どうしたんですか!?」
急いで家の中に入り、二階へ向かう。
剛は階段を登ってすぐの所にある寝室らしき部屋の真ん中で、上を向いたまま突っ立っていた。
失禁したのか、足元が濡れている。
「剛さん、どうしたんですか!」
問いかけても応答がない。
顔を見ると、白目をむいて口から涎を垂らしている。立ったまま気を失っているようだ。
「と、とにかく帰りましょう!」
翔太は剛の手を引くと急いで家を出た。
翔太に手を引かれている間も、剛は虚な表情で何かブツブツと喋っていた。

























天井に張り付くにはどれくらいの筋肉が必要なのだろうか