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心霊

AAA×スバルさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

白昼の廃屋
長編 2025/01/20 12:53 2,174view
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「はあ、はあ」
息を切らし、やっとの思いで門を出る。
ふと振り返ると、先程剛がいたベランダに誰かが立っていた。
薄い紫色のワンピースを纏い、長い黒髪で顔を隠した、異様に首の長い女……
その女が、こちらに向かってゆっくりと手を振っている。髪が揺れ、徐々に顔の一部が見えてきた。
(これ、まずいんじゃないか……?)
翔太は剛を背負うと、急いでその場を離れた。あの女の顔を見たらやばいと本能で悟ったのだ。
結局、剛は翔太の家に着くまで気を失ったままだった。

「ごめん、俺、記憶無くて……」
翔太に渡された麦茶を飲み干し、小さく呟いた。正気に戻ったようだが、冷や汗をかいている。
「どこからの記憶がないんですか?」

「どこからって……それもよくわからないんだ。あの家に入ったのはうっすらと覚えてるけど、その後はなんか……思い出せない夢を思い出そうとしてる時みたいな、とにかく曖昧な記憶しかないんだ」
まるで別人のように静かになってしまった剛は、翔太に礼を言うとふらふらの足取りで帰っていった。
問い詰めれば彼が何を見たのかわかるかもしれないが、翔太にはそんなことをする勇気はなかった。
なんとなく、思い出させないほうがいいと思ったのだ。

数日後、バイト先の居酒屋に行くとシフト表の剛の名前が二重線で消されていた。
「あれ、剛さんどうしたんですか?」
翔太が尋ねると、店長が舌打ちしながら答えた。
「あいつ、昨日急にバイト辞めるって電話してきやがった。ったくこの忙しい時期によぉ。そういやお前あいつと仲良かったよな?なんも聞いてねえの?」
剛とは、あの廃屋に行ってから一度も連絡を取っていなかった。
「いや、俺は何も聞いてないっすね……」
そう、本当に何も聞いていない。

しかし翔太は心のどこかで、あの廃屋での出来事が関係しているのではないかと思っていた。
それからしばらく、剛に電話をかけたりメールを送ってみたりもしたが、レスポンスは何もなかった。
このまま放っておくべきかとも思ったが、あの日無理矢理にでも剛を止めていればこんなことにはならなかったのではないかと、自分の弱さを責めるようになっていた。
このまま逃げていたらどうしようもない。
翔太は意を決して、剛の家に向かった。

剛はバイト先から程近い、古い木造アパートで一人暮らしをしている。
錆びた階段を登り剛の部屋のチャイムを押すと、ギィと音を立ててドアが開いた。
痩せこけて顔色が悪いが、剛だった。
「剛さん、お久しぶりです。お元気……そうには見えないですね……」
翔太が差し入れの袋を差し出すと、剛はそれを震える手で受け取り
「まあ、入れよ」
と、掠れた声で言った。

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