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心霊

きりはらさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

後悔の夜
長編 2025/01/01 10:38 824view

あの時、パニック状態だったAとCは、自分たちが乗り込んだ車が2ドアだったことを完全に忘れていた。そのせいで、Bは車に乗り込むことができなかったのだ。後部座席に座るには、前の席を倒す必要があるが、そんなことをする余裕もないまま、急いで発車してしまったのだ。しばらく車を走らせた後、その事実に気づいた2人だったが戻る勇気はなかった。ただひたすらDの部屋に向かう間、「お調子者で腕っぷしも強いBなら、何かあっても大丈夫だろう」と、自分たちに言い聞かせるようにしていた。

「置き去りにしたって……あんな山の中にか?」

「そうだ。けど……」
「幽霊はともかく、あんな場所、歩いて帰れるようなとこじゃないだろ!」
「そんなことはわかってんだよ!」

「AもDも落ち着けって!Bなら大丈夫だって。空が明るくなったら迎えに行けばいいだろ」

3人はBのことを思いつつも、自分たちの身に起きたそれぞれの恐怖のせいで動くことができなかった。空が白むまでの間、部屋でタバコを吸いながら気を紛らわせるしかなかった。やがて、空が水色がかってきた頃、3人は重い腰を上げ、部屋を出てAの車へ向かった。

「なんだよ、これ……」

Aが小さく声を漏らした。直後、残りの2人もそれを見て声をあげた。AとCが車を降りる時には気づかなかったが、3人の目の前にある赤い車体には、無数の手のひらの跡が付いていた。全員の背筋が凍りつく。「今すぐBを迎えに行かないと」と、3人は慌てて車に飛び乗り、件の家へ向かった。

「Bが今もあの家で待ってるわけがねえ。歩いて帰ろうとしてるはずだ」

焦りからアクセルを踏むAの足に力がこもるが、同時に道路沿いを歩いているかもしれないBを見落とさないよう、3人は道路に人影がないかをじっと見張り続けていた。

「おい!あれ!」

Cが突然大声を出し、指差した先には、昨夜の姿そのままのBがトボトボと歩いているのが見えた。Aは急いでBの横に車を停め、勢いよく飛び出した。しかし、Bに声をかけた瞬間、Aの胸を一瞬冷たいものが走った。目の前に立っているのは、もうBと呼べなかった。目は焦点があっていないようで、誰に話しかけているのか分からないように、意味不明な言葉を呟き続けている。明るいあのBが、まるで別人のようにうわの空で独り言を言い続けている。Aが名前を呼んでも、返事はおろか、反応すらほとんどない。あの家で何かが起きてから、Bは完全におかしくなってしまったのだ。Aは力なくBを車へ乗せ、再び車を走らせた。

あの夜を境に、4人は完全に変わってしまった。AはBを連れ立って、有名な寺へ向かった。住職は2人の顔を見るなり、何かを悟ったように顔を青ざめさせた。Aはあの夜の出来事を話し始めたが、住職は何も聞かず本堂に2人を通すと、静かにお祓いを始めた。それでも、Bの状態が良くなることはなかった。そればかりか、Aも次第に様子がおかしくなり、一月も経たないうちに命を落とした。そして、Aたちのお祓いを行った住職も、その数日後に亡くなったという噂が広まった。Cはあの夜以来、忽然と姿を消した。ただ一人、あの場所に行かなかったDだけは変わりなく生活を送っているように見えるが、あの男を忘れることはなかった。
結局、あの家のことも、Dの部屋を訪れた男のことも、何もわからずじまいのまま、家はいつの間にか取り壊されたそうだ。

あれから、もう幾年が過ぎた。Bは、あの海の見える街の精神科病棟に、今も入院している。

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