父の人生
投稿者:太山みせる (37)
父には洋一さんという親友がいます。
子供の頃、近所に住んでいた同級生で、現在は父の会社で働いています。
43才の時、父は洋一さんと京都旅行に行きました。
2人で京都の街を歩いていたら、着物を着たとても綺麗な女性がいたそうです。
長身で細身、モデルみたいな若く美しい女性に、思わず父は見惚れました。
古風な顔だちの美人で、高貴な雰囲気を醸し出していたそうです。
その女性の横を通る時、良い香りまで漂ってきて、何だか恥ずかしくなって真っ赤になって下を向きました。
すると突然、
「具合、悪いどすか?」
なんと、その女性に話しかけられました。
(えっ?えっ?)
とキョドッていると、女性は、
「座れるとこ、ありますえ」
と言って、近くにあるベンチまで連れて行ってくれて、持っていた和物のバッグから小さいペットボトルを出して、
「良かったら飲んどぉくれやす」
と父に渡しました。
そこまでの完璧に美しい所作に、父は気後れしまくりました。
どうして良いか分からず無言でいた父に、置いていかれた洋一さんがやって来て、女性に奥手で恥ずかしいだけなんですよと代わりに答えてくれました。
それが、父と母の出会いでした。
当時 母は22才で、アメリカの大学を卒業して、少し向こうで働いてから帰ってきたばかりでした。
久し振りに帰ってきて、着物が着たくなったそうです。
美女と着物という組み合わせに、父は母がお姫様に見えたと言っています。
母は何故か父に興味を持ち、色々と質問をしてきました。
洋一さんは、父がどんなに頑張って財を成したかなど、父を持ち上げる発言をたくさんしてくれたそうです。
母は立花雅(みやび)と名乗り、その優雅さに、父は名前まで完璧だと感動したそうです。
そんな母は父を気に入り、京都案内をしてくれて、帰る時には連絡先交換を持ちかけてきました。
そして数ヶ月後、母は父に会いにやって来たのです。
母は父にとって、あらゆる面で憧れでした。
京都生まれの美女、アメリカ一流大学卒、生まれながらの裕福な家庭、優しい両親……父に無いものをたくさん持っていたからです。
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