事故物件
投稿者:きのこ (12)
彼は色々と考えを巡らせた。黙っている男の子は、不機嫌なようにも見えるので、親と喧嘩をしたのかも知れない、と思った。そこで、
「じゃあ、お兄ちゃんも一緒に行こうか?」
と男の子の顔を覗き込んだ。しかし、
「……」男の子は首を横に振った。
「でも、自分の部屋が欲しいんでしょ?」
彼は再び言ったが、
「……」男の子は首を横にふる。
その後、何度か話しかけたが、男の子はじっと階段の方を見ているだけで、全然構ってくれなくなってしまった。
———ずっとはしゃいでいたから、疲れたのかな? そう思った。
男の子は無表情のまま、何も喋らずに両親が降りてくるのを待っている。しばらくして両親が降りてきたが、それでも近寄ることはなかった。やはり、明らかに様子がおかしい。すると男の子は、
「早く他の家を見に行きたい」
と、彼の服をグイグイと引っ張って、玄関へ向かった。
———この物件は古いから、気に入らなかったのかな。
そう考えていると、一緒に玄関を出た瞬間、
男の子はくぐもった声で、ぼそっと呟つぶやいた。
「押し入れに、じーちゃんと、ばーちゃんがいた……」
隣にいた彼だけにその声が聞こえて、
一気に全身の毛が逆立った。
それまでは何も気にならなかったのに、
急に身体が重くなったように感じる。
———本当に、家の中に何かがいるんだ……。
男の子の言葉が本当だと信じた彼は怖くなり、その後に紹介した物件のことは、あまり覚えていないらしい。
案内が終わり職場に戻った彼は、すぐに上司にその事を話し、過去に何があったのかを調べた後、会社は物件を手放した———。
彼が案内したその古い家には以前、高齢の夫婦が住んでおり、おばあさんは寝たきりだったらしい。
そして、介護をしていたおじいさんの方が先に、突然亡くなってしまったようだ。残されたおばあさんも、そんなに長くは生きられなかっただろう。
発見されたのは、死後数日経ってからだった。と聞いた。
身体がなくなってしまった今も、寄り添いながら家に残っている2人の姿を、男の子は視てしまったが、家の中にいる間は、知らないふりをしたようだ。
———その話を聞いて私は、賢い子供だな。と思った。
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