由紀子の箱
投稿者:えんたーさんどまん (2)
いつもの毛玉だらけのスウェット上下ではなく、柄シャツにジーンズを履き、伸ばしっぱなしのボサボサの髪も、ハーフアップ?というのか?なんだかオシャレな感じでまとめ、裸眼で目つきが悪かったのも、眼鏡をかけることで解消されている。
だらしない格好で人様ん家に行くなよ…などと、いつものようにガミガミ言わずに済んだことに胸を撫でおろしつつも、見慣れない小綺麗な八潮に、若干の気色悪さすら感じた。
俺は、戸惑いながらも「今日は…オシャレっすね」と精一杯の茶々を入れるが、「やかましい」の一言で華麗にスルーされてしまった。
そこから1時間ほど運転し、とある住宅街に入る。
建売の同じような見た目の家が並ぶエリアに、広町の家はあった。
広町家の駐車場、例の車らしきミニバンに横付けする。
エンジンを止めて、八潮に「なんか見える?」と聞くも、「…いや、まだわからん」という答えが返ってきた。
やはり、広町一家の気の所為なのだろうか?
車から降りて、インターホンを押そうと玄関に近づいたところ、あちら側からドアが開いた。
「いらっしゃい!」
玄関から元気よく出てきたのは、広町の妻であるリサちゃんだった。
実は広町同様、リサちゃんとも高校時代からの旧知の仲だ。
広町とリサちゃんは、くっついたり離れたりを繰り返し、3年前にようやくゴールインした。
俺と八潮は、結婚式以来3年ぶりの再会だ。
「お〜!久しぶり!元気だった?」
「元気元気!なんか2人の顔、久しぶりに見た気がする〜」
「結婚式のときはずっとマスクしてたしなァ」
「確かに〜!コロナ禍だったもんね(笑)」
もう3年も経つのか〜などと、わちゃわちゃ挨拶を交わしていると、奥の部屋から少しぐずっている娘のナナちゃんを抱っこした広町が出てきた。
とんがっていたあの頃の面影はなく、すっかり「いいパパ」といった様子だ。
「悪いなぁ〜品川。八潮も元気そうで何よりだわ。2人とも今日は来てくれてありがとうな」
広町と、人見知りしてるナナちゃんとも一通りの挨拶を済ませる。
まあ上がれよ。と、家に上がるように促されるも、とにかく車が気になった俺は
「先に車見せてもらってもいいかな?」と、聞いてみた。
どうやらワクワクが隠しきれていなかったようで、「相変わらずだな」と、広町は若干呆れた様子で笑った。
広町がナナちゃんを抱っこしたまま車に向かったのだが、端から見ていても、車に近づくたびにナナちゃんの表情が強張っていくのがわかる。
スマートキーで鍵を開けると、ついにナナちゃんは車から離れようと暴れ、泣き出してしまった。
広町はハッとして、「そっかそっか…ごめんな」となだめながら、ナナちゃんをリサちゃんに預け、「な?めちゃめちゃ嫌がるんだよ」と言いつつ運転席に乗り込んだ。
カーナビの確認の為、俺と八潮にも助手席と後部座席に乗るよう促してきたが、八潮は「俺はいいわ。ここで見てる」と言って乗りたがらない。
とりあえず俺だけが助手席に乗り込み、八潮は助手席側の窓から覗くように確認することになった。
八潮に霊感があるということをまだ知らない広町は、少し不思議そうにしていたが。
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