由紀子の箱
投稿者:えんたーさんどまん (2)
異音は車自体の問題かも知れんし、娘が車を嫌がるのは、車に何か嫌な思い出があるとか、助手席の快適さに慣れた結果、後部座席を嫌がっているだけかもしれない。
異臭や息遣い、話し声は、一連のことを「心霊現象かも…」と思い込むことからくる精神的なものなのでは?と思ったのだ。
俺がそれを伝えると、「俺だって最初はそう思ってたよ…。嫁さんの気の所為とか、娘のワガママじゃないかとかさ。…けどさ、やっぱり何か変なんだよ…うまく言えねぇけど。実際に見たら多分わかると思うんだわ…。俺がこういうの信じないって、お前も知ってるだろ?」と、神妙な様子で返ってきた。
「カーナビの件もあるし、近い内に一度会って話そうや」ということで、次の土曜の午後に会うことになった。
俺は広町との電話を切ると、すぐに八潮に電話をかけた。
何回目かのコールの後、あくび混じりの寝起きっぽい八潮の声が、スマホ越しに聞こえてくる。
「…………なんだよ…」
むっつりとした感じだが、これがいつも通りの八潮だ。
「おう。なんだ寝起きか?まだ20時にもなってないのに」
「さっきまで作業してたんだよ…。お前わかってて言ってんだろ…」
フリーランスは時間の縛りがない分、一点集中型の八潮は朝昼晩とぶっ続けで仕事をすることもままあることのようで、ここのところの八潮は暇さえあれば寝ている…というイメージが強い。
「悪い悪い。それよりよ、今度の土曜、広町と会うんだけど…お前も来ない?」
「…はぁ?広町?あいつ所帯持ちだし、独身野郎と会う暇なんかねぇだろ」
普段は何も気にしない風の八潮でも、なぜかそういうところの気遣いは欠かさない。
なんとなく断られそうなので、例の件は黙っていようかと思っていたのだが…。
これは正直に話しておいたほうがよさそうだ。
「いや〜…実はさぁ…カクカクシカジカでぇ…」
事の顛末を話すと、八潮は「…お前、ほんと好な…そういうの…」と、ため息と共に呟いた。
霊感があるが故、霊と関わることを極度に嫌う八潮だ。
きっといつものようにお説教されて終わるだろう…と身構えていたが、「わかった」という一言が返ってきて驚いた。
「えっ!?いいの?」
「見るには見るが、それ以外のことはできないからな」
ここで変に反応して八潮の気が変わってしまわないうちに、急いでスケジュール調整を済ませて電話をきった。
それにしても、どういう風の吹き回しだろうか…?この手の話には絶対に応じないはずなのに…。
不思議に思ったが、とりあえず週末のお楽しみができたことで、俺はワクワクしながら床についた。
土曜日。八潮家のある団地まで車で迎えに行く。到着を知らせるLINEを送り暫く待っていると、助手席のドアが開き、八潮が乗り込んでくる。
「おっす…っ!?」挨拶しようと八潮を見て、驚いた。
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