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ヒトコワ

セイスケくんさんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

知事の目安箱
短編 2024/11/20 08:52 283view

これは、地方自治体の元職員から聞いた話だ。

ある県庁に「目安箱」が設置されたのは、ある知事が着任した年のことだった。
その知事はテレビで「住民の声を聞く県政」を掲げ、同時に職員の意見を吸い上げるために庁舎内に目安箱を置くことを提案したのだ。

職員たちは「実効性のあるアイデアなのだろうか」と半信半疑だったが、設置後はそれなりに意見や要望が集まり、最初は平和に運営されていた。

しかし、数か月が過ぎたある日、状況が一変した。

目安箱に寄せられる投書の大半が、知事本人の「パワハラ」を告発するものになったのだ。
書かれていたのは、会議中の高圧的な叱責や、必要以上に個人を追い込む厳しい業務命令――誰が読んでも痛々しい内容ばかりだった。

「事実無根だ。」知事は投書を初めて目にしたとき、そう呟いたという。

しかし、その顔は青ざめていたとも、逆に怒りに染まっていたとも言われる。彼はすぐに記者会見を開くこともなく、「犯人を突き止める」と執念を燃やし始めた。

まずは投書内容を庁内で公表し、匿名性を逆手に取った「卑怯者」を許さない、と断言した。

そのうえで、指紋採取と筆跡鑑定、さらに防犯カメラの解析を命じた。

投書が行われた時間帯を調べ、近くを通った職員の動きを逐一確認する――県庁はまるで捜査本部のような雰囲気になり、職員たちは疑心暗鬼に陥っていった。

そして、ついに特定された「犯人」は、県庁で20年勤めたベテラン職員だった。

その人物は、責め立てられた末に「確かに不満はあったが、投書はしていない」と泣きながら訴えた。しかし、知事は容赦なく懲戒処分を下した。

「これで秩序は戻った。」

知事はそう言って自信を取り戻した様子だったが、職員の間には深い不信感と恐怖だけが残された。

ところが、不気味なことが起きたのはそれからだった。

翌週、再び目安箱には投書が投じられた。
それも、前回よりも数が多く、内容も過激になっていた。

「県政の独裁者」

「職員を人とも思わぬ冷血漢」

どの投書にも、怒りと悲しみが滲んでいた。

奇妙なのは、その投書には指紋が一切残されていなかったことだ。

紙自体もどこか古びており、印刷されたインクは見たこともないものだったという。
しかも、防犯カメラの映像には、誰一人として目安箱に近づく姿が映っていなかった。

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