慧理命
投稿者:セイスケくん (29)
大晦日の夜、東京の下町にある歴史を感じさせるビジネスホテルに、一人の男が現れた。
黒いトレンチコートを身にまとい、年季の入ったスーツケースを片手に静かに歩く姿は、周囲の喧騒とは不釣り合いな静けさをまとっていた。
「予約していた橘です。」
低く響く声にフロント係が少し戸惑いながらも鍵を手渡す。
彼の名前は橘礼司。表向きは投資家として知られているが、実は「禁術」を操る魔術師でもあった。
橘はエレベーターを避け、階段を上がり指定された部屋に入った。
部屋に入るなり、彼はカーテンを閉め、ドアに二重の鍵をかけると、スーツケースから革の古びた箱を取り出した。
箱の中には、巻物や小さな神具が入っており、彼はそれを机に慎重に並べた。
「これで準備は整った。」
部屋の中央に木製の盆を置き、米と塩、清酒を供える。
机の上には古代文字がびっしりと記された巻物。
橘は深い呼吸を繰り返し、目を閉じて口を開いた。
「我が声を聞き届けよ――時の理を超えし、慧理(えり)の神よ。」
その声が次第に深みを増し、空気が異様に静まり返ったかと思うと、部屋の中心に淡い青白い光が現れた。
光は徐々に形を成し、そこに立っていたのは、長い黒髪と深い蒼い瞳を持つ神――慧理命(えりのみこと)。
その姿は静寂そのもの。白い衣をまとい、どこか冷たくも神秘的な雰囲気を漂わせていた。
「人の子よ、汝の声に応え、ここに現れた。何を求めるか。」
慧理命の声は透明感がありながらも威厳に満ちていた。
橘は一礼すると、静かに告げた。
「未来を知る手助けをいただきたいのです。」
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