足止めの術
投稿者:セイスケくん (23)
「足止め…とは?」と河原さんが尋ね返すと、霊能者は曖昧な微笑を浮かべた。
「一時的にその場所に縛り付けるのです。その間に、あなたが手を差し伸べる準備を整える必要があります。さもなくば、戻る道は永遠に閉ざされるでしょう」
詳細を尋ねても、霊能者は多くを語らなかった。
「準備は私に任せてください。ただし、強い覚悟が必要です」とだけ告げられた。
その言葉には不気味さがあり、一抹の不安を覚えつつも、河原さんはすがる思いで依頼を受け入れた。
その晩、河原さんは家に戻り、娘の写真を手に深く祈り続けた。
不安と希望が交錯し、胸中には複雑な感情が渦巻いていた。
翌日、霊能者からの指示通りに、娘が家にいた頃に使っていた古いタオルや手紙を集め、封筒に入れて持参した。
霊能者はそれを受け取ると静かに頷き、何も言わずにそれを仏壇の前に置いた。
「準備は整いました」と霊能者は低く語った。
「あとは、あなたが祈りを続けることです。
娘さんの心がこちらに戻るよう、毎日心を込めて祈り続けてください」
その頃、娘は教団の仲間と公園で「修行」と称する活動をしていた。
広場で円陣を組み、無目的に歌い、跳びはねる奇怪な光景。
娘も他の仲間とともに駆け回っていたが、その日の彼女は特に落ち着きを欠いていた。
心の中に、説明のつかないざわめきが生じていた。
娘はふと、何かに突き動かされるような感覚に襲われた。
理由もなく胸がざわつき、体内に得体の知れない焦燥感が膨らんでいった。
そして突如、彼女は全力で走り出し、助走をつけて芝生に大きく跳び上がった。
その瞬間、「バキッ」という異様な音が響いた。
着地に失敗し、脚が不自然に折れ曲がったのである。
娘は地面に倒れ込み、激痛に悲鳴を上げた。
仲間たちは慌てて駆け寄り、即座に救急車を呼んだ。
その間、教団のリーダーたちは遠巻きに状況を見守り、何も指示を出さなかった。
彼らは事故について無関心であるかのように振る舞い、仲間たちが対応する様子を静観していた。
病院に運ばれた娘は複雑骨折と診断され、全治数カ月の重傷を負った。
治療費の保証人が必要となり、実家に連絡が入ることとなった。
病室で娘と再会した河原さんは、抑えきれず涙を流した。
しかし、娘は冷たい視線をそらしたままだった。
手術後も心を閉ざし続ける娘に対し、河原さんは毎日語りかけた。
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