ただそこにいるだけのものたちへの鎮魂歌
投稿者:ねこじろう (147)
ピエロはそう言って大島の顔を見ると続けた。
「あんた、あの子に大きな借りがあるんでしょ?」
そう言うとピエロは左手に持った数個の白い風船の一つを大島に手渡した。
彼はピエロの顔を見てから大きく頷くと立ち上がり、歩き続けている若い女性の方に向かって走りだした。
そして背後から近づき立ち止まると、震える声で呟く。
「る、、瑠美」
突然女性は足を止めた。
そして肩越しにゆっくり振り返ると呆けたような表情を大島に向ける。
すると彼は女性の正面に立つと、そっと白い風船を手渡した。
初め彼女は手に持ったそれを見てから驚いたような様子をみせたが、やがて微かに微笑んだ。
それから大島は彼女を強く抱きしめると「ごめんよお、ごめんよお」と繰り返しながら泣き叫ぶ。
やがて二人の姿は電波障害を起こしたテレビ画像のように徐々に崩れだすと、最後はふっと消えた。
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それは令和6年10月X日秋晴れの日のこと。
ちょうど大島がアパートの一室で突然目覚めた前日のことだった。
二十歳の彼は新しく買ったバイクの後ろに彼女の瑠美を乗せ、隣町にある父の実家に行く。
生前可愛がってもらっていたじいちゃんの七回忌だったからだ。
古い日本家屋の奥まったところにある仏間の立派な仏壇。
そこに飾られた遺影の中で優しく微笑む日に焼けたじいちゃんの顔。
じいちゃんには左腕がなく、若い頃の事故で失ったということだった。
遺影の前に二人並び正座し焼香して手を合わせると、実家をあとにする。
それから再び大島は瑠美を乗せバイクで自宅アパート方面に向かった。
死後の世界だったのか!