続 空き巣常習犯最後の仕事
投稿者:とくのしん (65)
ピンポーン
再度インターホンが鳴るんです。さすがに2回目はまたやってる、程度に思っていました。しかし、玄関が開いた音がしなかったことに気づいた。とすればインターホンの犯人は奥村さんじゃない?そんなことを考えていると
「ごめんください」
廊下の奥、玄関の外から低い男の声が聞こえた。声の感じから年配の方を想像した。ただ、そのときはまだ奥村さんが声色を変えて悪戯を続けているものと思いました。が、
ピンポーン
3度目のインターホンのあと、再び男の声がしました。
「ごめんください」
さすがにしつこいと思った私が居間の襖から隣の仏間に移ろうとしたとき、奥村さんが血相を変えて居間に戻ってきました。
「奥村さん、悪戯やめてくださいよ」
そう声をかけた私に
「俺じゃない。俺じゃないよ」
慌てた様子で小声ながら捲し立ててきました。
その間もインターホンは鳴り、男が「ごめんください」を連呼していた。
奥村さんは私に向かい言いました。
「逃げよう!早く逃げよう!」
数々の廃墟巡りをし何度も心霊体験をしてきたと豪語していた奥村さんの尋常ではない怖がり方を見て、ようやく私にも状況が呑み込めてきて・・・思えばこんな廃村のような場所に人がいるのか?と冷静に考えてみると、恐怖がどっと押し寄せてきました。
ピンポーン
何度目かのインターホンの音が聞こえたあと、男の低い声で
「いるんだろ」
一際大きな声が家の中に響いた。
すると間髪入れずにドスドスドスと足音を響かせて迫ってきた。だけど玄関が開く音なんて聞こえなかったんです。あまりに唐突に声の主が家にあがってきたので、私と奥村さんは我先にと仏間側ではない襖を開けた。その先には台所があり、勝手口が見えたのでそこから私たちは外に飛び出しました。そのまま敷地をグルーっと大きく回って道に戻り、車に飛び乗ってその場から急いで立ち去りました。
そうしてしばらく走っていると、ダムの駐車場に戻ることができた。“このまま進むよりも駐車場で朝が来るのを待とう”ということになり、ふと時計に目をやると時刻は午前3時を過ぎていました。
駐車場に着いたという安堵感もありましたけど、思い返すととにかく怖くて怖くて・・・。奥村さんも同じだったと思います。お互いろくに会話もせず、ただただ時間が過ぎるのをじっと待っていました。そうして朝日が昇り始めた午前5時頃、私も奥村さんも心底安堵して助かったというような話をしたのを何となく覚えています。
それで山を無事に下りることができましてね。思い返せば昨日の昼からろくに飯も食べていないからと、市街地に出てファミレスで食事をしたんです。そこで奥村さんが妙なことを言っていたんですよね。
「インターホンが鳴って、男の声がしたでしょ。そのとき仏間から玄関をこっそり覗いていたんだよ。そしたらさ、玄関に人影が映っていたんだけど・・・それが女性のシルエットだったんだよね・・・」
奥村さんとはそれっきりになりました。私が廃墟巡りはやめたこともあって、連絡も段々と疎遠になって。気がつけば奥村さんのサイトはひっそりと閉鎖されていました。恐らく奥村さんも廃墟巡りはやめたんじゃないかと思っています。
山岸さんが体験した話が、私の投稿作品と関連があるのかはわからない。
あなたの地元にも幻の廃村と呼ばれるスポットがあったら、もしかするとこの話の舞台なのかもしれません。行くか行かないかは、あなた次第・・・。
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