古びた病院の最後の患者
投稿者:ほらりん (21)
かつて賑わっていた病院は、今はひっそりと廃墟と化していた。高い塀に囲まれ、蔦が絡みつく外壁は、まるで物語に出てくる廃城のよう。噂によると、この病院では数々の怪奇現象が起きており、心霊スポットとして知られていた。
ある夜、心霊研究家の若者、拓也は、その病院に侵入した。懐中電灯の光を頼りに、薄暗い廊道を進む。壁には剥がれかけたポスターや、埃をかぶった医療器具が置かれており、どこか寂しい雰囲気。
最も奥の病室にたどり着いた拓也は、恐る恐るドアを開けた。薄暗い部屋の中央には、大きなベッドが一つ。ベッドの上には、白いシーツがかけられていた。
拓也は、懐中電灯をベッドに向けて照らした。すると、シーツの下から、青白い手が現れた。心臓がバクバクと鳴り響く。ゆっくりとシーツがめくれ上がり、そこには、若い女性の姿があった。
女性は、まるで生きた人間のように呼吸をしていて、拓也を見つめていた。その目は、深い悲しみと絶望に満ちていた。
女性は、かすれた声で語り始めた。「私は、この病院で一人きりになった。誰も私を助けてくれない。お願い、私をここから出して。」
拓也は、恐怖を感じながらも、女性を助けたいと思った。しかし、どうすればいいのか分からなかった。
その時、突然、病院全体が揺れ始めた。天井から大きな亀裂が走り、照明が消えた。真っ暗闇の中、女性の悲鳴が響き渡る。
拓也は、必死に女性の手を握り、病院から脱出しようとした。しかし、出口が見つからない。
最後の力を振り絞って、拓也は女性に言った。「必ずあなたを救い出すから、一緒に頑張ろう。」
その瞬間、女性の体が光に包まれ、消えてしまった。
再び光が戻った病院。拓也は、一人残されていた。女性の霊は、彼に最後の願いを託し、この世から消えたのかもしれない。
拓也は、病院を後にし、再び訪れることはなかった。しかし、あの夜の出来事は、彼の心に深く刻み込まれた。
実は、その女性は、かつてこの病院で治療を受けていた患者だった。ある実験の失敗により、不治の病にかかってしまい、孤独な死を遂げた。彼女の霊は、この病院に閉じ込められ、永遠に苦しみ続けていたのだ。
拓也との出会いは、彼女にとって、束の間の救いとなったのかもしれない。
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