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ヒトコワ

horiedonさんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

しつけ
短編 2024/08/18 02:31 1,499view
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育児関連のセミナーで、講師の先生がこんな怖い話をしてくれたことが印象に残っています。

その家には8歳になるかわいい一人娘がいました。

元気いっぱいの女の子で、小学校や近所の公園で友達とよく遊んでいました。

家に帰ってからは、ご飯ができるまでテレビ、ご飯を食べてからはテレビか宿題をして、9時になったらお母さんが娘さんの部屋に彼女を連れていき、寝かしつけるというのが日常でした。

ただ近頃、娘さんは少女マンガにすっかりはまってしまったみたいなのです。

ベッドの近くにどこから引っ張り出したのか電灯を設置したのを怪しいと思ったお母さんは、ある日、夜中の11時にノックも無しにガチャリと娘さんの部屋に入りました。

案の定、娘さんはベッド近くの電灯を点けて少女漫画を読みふけっていました。

「こら!今何時だと思ってるのよ!」お母さんの怒鳴り声が部屋にキンキンと鳴り響きます。

娘さんはベソをかいて謝りました。ただお母さんはそれだけでは収まりがつきませんでした。

余談ですが、講師の方が言うには、お母さんは厳しい家庭で育った方だったそうで、子供に無意識につらく当たってしまう傾向があったのかもしれない、とのことでした。

本筋に戻ると、お母さんは何かしら娘さんを罰したくなってしまったそうなのです。平たく言えばしつけです。

お母さんがしつけとして考え出したのは、娘さんを怖がらせる事でした。というのも、娘さんはオバケや怖い話が大の苦手で、怖がらせる事は娘にとってのしつけとして効果テキメンだと思ったのです。

お母さんが娘さんに話したのは、当時はやっていた「サっちゃん」の都市伝説を真似たものでした。それは、9時に寝ない子どものところには大きなハサミを持ったサっちゃんがきて、それでもって片方の足首をチョン切ってしまうといったものです。

翌日、お母さんがこの話を夕食の席ですると、狙い通り、娘さんはすっかり怖がっている様子でした。「○○くんのお母さんから聞いたんだけど、××小の子がサっちゃんを見たんだって」と、お母さんは追い打ちをかけます。「本当かもしれないから早く寝ないとだめだよね?」娘さんは「うんわかった」といって、「昨日はごめんなさい」と再び謝りました。

ところが、それから一週間が過ぎた日の事でした。やはり夜中の11時を回ったころ、お母さんは床に就く為、たまたま娘さんの部屋の前を横切りました。その時、部屋の中からかすかに聞こえてきたクスクスクスという笑い声を、お母さんは聞き逃しませんでした。

この時、お母さんの中に、一種のヒステリックな衝動が生まれてしまったのだそうです。私はたった一人の娘であるあなたの健康を心配しているのに。私の言う事をどうして聞かないの。あの子、怖がったふりをして私の事をだましていたんだわ。こうなったら、あの子をどうにかして思い知らせてやりたい。そうすれば今度は私の言う事を聞いてくれるはず。

わが子を思う母親の愛が、同じだけの重みをもつ醜い自己満足へとなり下がった瞬間でした。

お母さんは、娘さんへの一種の復讐を思いつきました。そして、この日はあえて娘さんの部屋に押し入ることはせず、泳がせる事にしたのでした。

それから3日ほど経ちました。娘さんはお母さんに気づかれていないものだとすっかり思い込み、連日のように真夜中まで漫画を読んで楽しい時間を過ごしているようでした。

お母さんは復讐を決行する事にしました。それは、お母さんが「サっちゃん」になるというものでした。まずはいつもキッチンで使っている、大きなハサミを持ってきました。それで、彼女はいつも入念に手入れしていた肩まで届く髪の毛を、バッサリと切り落として、おかっぱ姿に変身しました。服の上からは黄色いレインコートを被り、顔には去年の夏に娘さんと行った縁日で買ってあげた、ピンクのうさぎさんのお面をつけました。

サっちゃんのいでたちになったお母さんは、娘さんの部屋に向かってドッタドッタ足音を響かせ、ドアをどんどんどんと叩きました。

そして、ゆっくりとドアを開けると、真っ暗な部屋のベッドの上で娘さんは布団をかぶり目をつぶっていました。恐らく狸寝入りだったのでしょう。そこで、お母さんは娘さんの枕元まで行くと、ハサミを掲げ「わたし、サっちゃん!あなたのみぎあしをちょうだい!」と甲高い声で叫んだのです。

この声に驚いた娘さんは布団から飛び起き、目の前の常軌を逸した光景に続けて仰天しました。そこに立っていたのは、娘さんにとって、優しくて見た目もきれいで憧れの存在だった母親ではなく、ボサボサのおかっぱで自分の足首を狙いに来た変態ハサミ女でした。

娘さんは恐怖に我を失い絶叫し、お母さんはこれに負けじと、泣き喚きながら自分の想いを全部吐き出しました。この絶叫の応酬にぎょっとした近隣の住民が警察を呼び、母親は取り押さえられました。

ここまでのエピソードはその取調べ時に母親が自ら話したものだそうです。

その後、娘さんは精神を病んで学校に行けなくなり、母親も仕事に行かず引きこもりがちになってしまい、近所の人が気づいたころにはもう母子はその町からいなくなっていたと言います。

この話が終わるころには周囲で泣いている人も何人か見掛けました。私にとっても、思い出すたびに悲しくなる話です。

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