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不思議体験

とくのしんさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

電車運転手 渡辺が視たもの
長編 2024/08/02 09:43 7,011view
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警察官もそれみてしばらくだんまりでしたよ。とりあえず事故の線で捜査すると言っていましたが、これは明らかに事故じゃないだろうと誰もが感じたでしょう。あとで聞いた話ですけど、突き飛ばされるように落ちた男性の事故も同様に、不可解な映像がはっきりと残っていたそうです。

もともと人身事故が多い駅で有名でしたけど、あのような人身事故を目撃したのは初めてだった。だけど、同僚の数人も同じような不可解な人身に遭遇していたことから、この駅に何かあるんじゃないか?なんて話が仲間内に広がっていった。

それから少ししたとある日、私は最終電車を走らせていた。この時間までに人身事故の発生は無く、何事もなく一日を終えられるなと、そう思いながら電車を走らせていた。例の駅に向かう途中、霧が出てきた。

立ち込める霧は次第に色濃くなっていく。気が付けばあたり一面真っ白な霧に覆われ始めていた。

例の駅と手前の駅の間には踏み切りが3つある。2つ目を越えたあたりからあたりは真っ白。3つ目の踏切に差し掛かると、かろうじて踏切の赤ランプの点滅が見える程度にまでなっていた。そこを通過して、例の駅までもうすぐだなと思っていた。

しかし、3つ目の駅を通り過ぎてしばらく経つのに駅が見えてこない。霧のせいで踏切の数を数え間違えたか?そんなことを思っていると、もう1つ踏切に差し掛かった。なんだ、勘違いだったのかと思いつつも時刻を見ると時計が23時30分を指している。そのときにおかしいことに気づいた。手前の駅を出発して、まだ数分しか経っていない。体感的には10分程電車を走らせているのに、時計が思ったよりも進んでいなかったのだ。

何か・・・嫌なものを感じ始めていた。

しかし電車の特性上、何かあっても戻ることはできない。仕方なくそのまま電車を走らせていると、霧の奥にぼんやりと明かりが見えてきた。近づくにつれ、それが駅だとわかる。ようやく見えた駅の明かりに安堵しながら、停止位置目標を確認し私は電車を止めた。

濃い霧のなかで電車を無事止めたものの、何かがおかしい。その違和感に私はすぐに気づいた。ここは“例の駅”ではない。別の駅に私は電車を止めているのだ。ここは一体どこの駅なのか?戸惑う私の視界が、薄らぐ霧とともに徐々に開けてくる。見えてきた古めかしい駅構内の光景は、例の駅とは似ても似つかないものであった。

例の駅は、地方のちょっとしたターミナル駅であるため、番線の数は10ある。しかし、この駅の番線数は4つ。見たこともない駅の光景に、私は戸惑いながらも出発合図を待っていた。しかし、待てども待てども車掌からの連絡ブザーが鳴ることがない。

やはり何かおかしい・・・私は車内電話で車掌に連絡を入れるが応答はない。次に指令に無線を入れる。こちらも応答はない。

応答がないのは通信機器障害かもしれないし、知らない駅に着いてしまったのはどこかポイント故障でもあって別の路線を走っていたのかもしれない・・・。

そんなバカげた思考を巡らせながら、必死に都合のいい解釈でこの状況をなんとか取り繕うとしていた。しかし、このままここで待機していても埒が明かないと、駅務員室に向かうことにした

運転席から降りた私を、ヒヤリとした空気が包む。駅構内の照明の明かりの1つ1つが、空を見上げれば月明りも未だ霧がのせいでぼんやりとくすんでいる。それが美しく儚い幻想的な光景を作り上げていた。その雰囲気のなか、私は各車両を見て回った。しかし、乗客はおろか最後尾の車内にいるはずの車掌の姿すらない。

ここまで来るとどこか別の世界に迷い込んだのかと思いながら、構内に設置された駅名標に目をやる。そこには“例の駅名”が刻まれていた。左右の駅名には、手前の出発してきた駅名とその先の駅名があるのだが、駅名標中央の自駅名には“〇〇駅”と見知った駅名が表記されていた。しかし、どこをどう見ても私の知っているあの駅とは似ても似つかない。近代的な造りの例の駅と、ノスタルジックなレトロ調の様相とではあまりに違いすぎるし、そもそも番線数すら異なる。

この不可思議な状況下に、夢であれば覚めて欲しいと願いながら跨線橋の階段を上る。反対側のホームに渡り、駅務員室へと辿り着くが室内に人の気配はない。途方に暮れた私は改札を通り、駅の外に出ることにした。

駅の外は未だ濃い霧が立ち込めていた。近くに交番や民家でもあればと思い外に出たが、少なくとも近くに交番は見当たらない。この霧の中を動くのは得策ではないと判断し、私はひとまずその場に腰をかけた。

疲れた・・・。わけのわからない状況下で気を張っていたせいか、座りこんだ途端に疲れがどっと押し寄せた。このままここに留まるか、それとも電車で先を進むか。思案に暮れていると、どこからか何かが聞こえてきた。

耳を澄ますと、それはどうやら歌のようである。

『かーごめかーごめ』

俯いた顔を上げると、どうやら霧の中から聞こえる。だが、私は動く気力も出ず、その歌に耳を澄ませていた。

『かごめかごめ 籠の中の鳥は いついつ出やる 夜明けの晩に 鶴と亀と滑った 後ろの正面だあれ』

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コメント(4)
  • 不思議なことってありますね。

    2024/08/04/09:22
  • 怖かったです。

    2024/08/15/00:16
  • 不思議

    2024/08/31/13:05
  • たくさんの投票ありがとうございました。

    とくのしん

    2024/09/03/09:50

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