瞬間移動

知人の奈美から聞いた話

奈美が中学2年生のある日、父親が真っ青な顔で会社から帰ってきた
何があったか聞いたら、飛び降り自殺を見てしまったという

その日の昼にお得意先に行く途中、背後上空から何かの気配が降ってきた
次の瞬間、凄い音がして振り向いたら、自分の数メートル後ろに男性が倒れていた

飛び降りだ！と、すぐに思ったそうだ
その辺一帯は騒然となった

その男性は死に切れず、ヒクヒクして怖かったけど、助けられるものならばと近づき、声を掛けた

その人はモゴモゴ言っていたが言葉にならず、そのうちに動かなくなった

じきに救急車もやって来て、事情を聞かれたりして大変だったらしい
近くの地面に歯が刺さっていて、それも怖かったと言っていたそうだ

次の日の朝、トイレに入った父親が悲鳴を上げた
駆けつけた家族が見たものは、床に転がる血まみれの歯だった

家族の誰の歯でもないことを確認したら、気持ちが悪いからと、その歯は棄てたそうだ

翌日も歯がトイレに落ちていた
その翌日も……

気持ちが悪いけど、棄てたらダメなのかな？ということになり、拾って容器に入れてまとめて寺に持って行こうということになった

だが暫くすると慣れて、あまり怖くなくなったらしい

すぐ行けば良かったかも知れないけど、懇意にしてる寺は遠いのよ、と奈美は言っていた

歯がたくさん集まって、そろそろ持って行こうかとなった時に、今度は血まみれの爪が落ちるようになった

流石に怖くなって、すぐに寺に持って行って供養したら、怪異はスッカリなくなったという

「何だったんだろうね？」
私の問いに、
「少しずつ、瞬間移動して来るのかと思って怖かった」
と、天然な奈美は言った

寺に行かなければ、やがて全部のパーツが揃ったのだろうか？
そもそも『瞬間』移動ではないよね