お告げ
投稿者:綿貫 一 (31)
熱されたフライパンの上に落ちてきたのが、いつか飼育小屋で見た、あの粘液だらけの天使じゃなかったら、その日もいつもどおりの朝だったのに。
突然のことに固まっている私の目の前で、天使は熱さに悶えてフライパンの上を転げ回ってた。
ギーギーギー!
そして、苦悶の声の下から、
「チガァ――」
って。
仲良しの友だちの名前が聞こえてきたの。
天使はやっぱり泡になって溶けて、フライパンからは甘い匂いが漂ってた。
※
※
「……じゃあ、何?
チカが下校中、車にはねられて死んだのは、その天使みたいのに予言されたからだったってわけ?
アンタ、あの時そんなこと、一言も言わなかったじゃない!
今になって、何ワケわかんないこと……」
「私だってチカちゃんが亡くなったのはショックだったんだよ?
それとも何? 泣きながら『天使が、天使が!』って叫んでればよかったの?
いくら中3の頃の私でも、TPOくらいわきまえてたよ!」
ヒナコが珍しく、気色(けしき)ばんで反論してくる。
彼女の言うことは、確かにそうだ。
「……ごめん」
「ううん……。
私もね、チカちゃんの事故の前は、それが良くない出来事の予言だなんて、思ってなかったの。
なぜなら、小学生の時の『天使体験』は、不思議で不気味ではあったけど、良いことの前触れだったから。
だから、チカちゃんにも事前に注意を促すことはしなかったし、事故の後は口をつぐんだ。
これまでずっと――」
(言ってくれればよかったじゃない、もっと早く。
アンタひとりで抱えてるの、つらかったでしょうに)
そう思ったけど、激昂してしまった私が今さらそれを言うのは憚(はばか)られた。
窓の外を、セーラー服の女の子たちが、笑いながら駆けて行った。
いつかの私たちを見ているかのような気がした。
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