猫と殺鼠剤

「猫が死んだらどんな顔するだろうってニヤニヤしながら言ってたらしいよ？」

「それは本当なのか？」

「じゃあ、間違って食べてしまったというよりは、餌として与えてしまった可能性も・・・」

「充分にありえる、だけど証拠がない」

このような嘘か本当か分からないような噂話が流れていたらしい。
当然、私の両親の耳にも入っていたようだが、私が青山さん家の奥さんを怨まないように黙っていたそうだ。

そのうち噂話も終息していき、私も親の仕事の都合で引っ越しすることになった。

その頃にはミケちゃんを失った悲しみも癒えつつあり、徐々に記憶が薄くなっていった。

それから何年も経ち、私が大学生になった頃。
大学の授業の一環で鼠の解剖をすることになり、幼少期のミケちゃんが殺鼠剤を食べてしまった出来事をふと思い出す。

同じ班の人達にミケちゃんと殺鼠剤の話をしてみると、こんな答えが返ってきた。

「ミケちゃん可哀想だったね、でも、猫って殺鼠剤なんて食べてしまうんだね」

「ネズミ捕りだったらミケちゃん死ぬことなかったのにね」

「でも、殺鼠剤って酷くない？」

「そうだよね、ミケちゃんの他にも死んじゃった動物とか居たのかな？」

「下手したら小さい子供がお菓子と間違えて口に入れちゃう可能性だって・・・」

「変なこと言うのはやめようよ、想像したら怖くなってきたじゃん！」

帰宅後に母にミケちゃんの話題をそれとなく出してみたところ、母は真っ先に青山さん家の奥さんがどうなったのかを話してきた。

「青山さん家の奥さんね、あのあと病気で死んじゃったんだって」

「何でも癌だったみたいだね」

「胃癌だったか大腸癌だったかははっきり覚えてないけど、体調崩して病院行った時には手遅れだったとか」

「何も食べられずに段々痩せ細っていって、最後にはガリガリになって死んでいったそうな」

「ミケちゃんに殺鼠剤を食べさせたんじゃないかって噂話があったんだけどね、あんたを傷つけたくないから内緒にしていたんだけど、たぶん、食べさせたんじゃないかな・・・」