アレなに?
投稿者:綿貫 一 (31)
人だかりの中に、見知った顔があった。
いつも公園で一緒に遊んでいるママ友たちだ。
彼女たちは、子供と一緒にあるものを見つめていた。
皆、顔には笑みを浮かべて。
皆の視線の先。そこには、ひとりのピエロがいた。
派手な色の服を着て、顔を白く塗りたくり、頬には雫型の紅いペイントをしている。
真っ赤な付け鼻、オレンジ色のパンチパーマ、そして頭には丸いボーラーハット。
彼は、おどけた笑顔で観衆の方に向かって歩いてこようとしたが、不意に、何かにぶつかったかのように後ろに身を引いた。
彼は、驚いた顔をしながら、おそるおそるといった風に手を伸ばす。
なにもない空中で、手の平がピタリと止まる。まるで、見えない壁に触れているかのように。
彼は、そのまま真横にペタペタと手を這わす。
壁がどこまでも続いているように見える。
「あら、マナちゃんのママ。こんにちは」
ママ友のひとりがこちらに気付いて声をかけてくる。
「こんにちは。面白いですね、これ。
パントマイムって、私、生で見るの初めてかもしれません」
「私も。
見て、子供たちったら真剣。大道芸人の人だと思うけど、子供が大人しくなって助かるわぁ」
見ると我が娘マナも、ピエロの一挙手一投足を見逃すまいと、目を皿のようにしている。
実際、彼のパントマイムは見事だった。
透明の壁に始まり、階段やはしごを登ってみたり、見えない台風の中、体を煽られながら前進してみたり、水の中に潜ってみたり。
はたまた、犬や猫、蛇やリスといった動物たちと戯れる仕草をすると、彼の動きを通して、だんだん「見えない」動物が「視えてくる」かのように感じられた。
きっと、手や体の仕草の他にも、視線や表情も大切なのだろう。
それらの組合せで、ありもしないものの大きさや重さ、手触りや臭いまでもが、観ている人間にリアルなイメージを想起させるのだ。
ピエロの芸は、いつしか終盤に差し掛かっているようだ。
こういった見せ物の最後には、見物人からおひねりを回収する時間が設けられているはずだった。
私も娘も楽しませてもらったし、別にケチるわけではないのだが、ママ友たちの手前、どの程度の金額を出すのが妥当なのだろうかと、私がひそかに悩み出した――その時だった。
「わーん!」
突然、最前列の幼児が、けたたましく泣き出した。
あらあら、と思っていると、
怖えぇぇ!!!
((( ;゚Д゚)))
((( ;゚Д゚)))怖
((( ;゚Д゚)))怖い
こわきもちわるっ((((´□`;)ヒェ…
空には何がいたの???
想像してしまった…そして吐いた…ワイドハイター