誰そ彼(たそがれ)
投稿者:ねこじろう (147)
三人の暮らしは決して楽なものではなかったが、あの頃の生活には日々喜怒哀楽があり間違いなく毎日を生きているという実感だけはあった。
そう、あの頃確かにTは孤独ではなかったのだ。
─もう一度、あの頃に戻りたい、、、
彼はそう一人呟くと大きくため息をついた。
すると唐突に場面は変わる。
それはある秋口の夕暮れ時の食卓。
幼いTはいつものように居間で父母と夕飯を食べていた。
彼の前には汗で黄ばんだランニングシャツの父、その隣には割烹着姿の母が座っている。
すると突然玄関の方から「あのお、すみません」という男の人の声が聞こえてきた。
母が「はーい」と返事をする。
Tが後ろを振り向き玄関先に目をやると、そこには年配の男が立っているのか見えた。
夕暮れ時特有の逆光が眩しくはっきりとは見えないが、スーツ姿の男は痩せていて、どこか自信無さげで不安げな表情に見える。
母は父と顔を見合わせると互いに苦笑いする。
すると父は茶碗を置き少しの間腕組みをすると、母に向かってこう言った。
「おい、気の毒だからおにぎりか何か持たしてやれ」
母はニッコリと微笑み立ち上がると玄関の男に向かい「ちょっと、待っててね」と大声で言うと台所にそそくさと歩く。
しばらくすると母は二個のおにぎりを乗せた皿を持って玄関に走る。
だがその時には男の姿はなかった。
※※※※※※※※※※
─○○~、○○で~す
どなた様もお忘れものなきよう、、、
駅員の車内アナウンスで覚醒したTは慌ててホームに飛び出す。
タイトルが秀逸
コメントありがとうございます。
─ねこじろう
物悲しい話。
やっぱり温かい家庭っていいな。
長期間孤独に身を置くと幻覚まで見えるようになるのかもね。
ぽっぽや見た時と近い感情になった
暖かみがあると感じさせつつさり気なく救いのない、いや救われる? いや、なんだろう.やはり救いのない、だからこその不条理系怪談、ということなのかな。
コメントありがとうございます。
─ねこじろう