誰そ彼(たそがれ)
投稿者:ねこじろう (147)
薄汚れたランニングシャツに作業ズボン姿の男性と割烹着姿の女性、そして白いTシャツに半ズボンの少年。
三人を含む周囲の光景だけがまるで古い写真のようにセピア色をしていて、陽炎のように微かにゆらゆらと揺れている
─あれは?、、、
Tは思わず手で目を擦り、また確認するかのように両目を大きく開く。
それから彼らに引っ張られるようにふらふらと前に歩きだした。
そしてあと一歩で足が踏み場を失うかという時。
凄まじい轟音とけたたましい警笛音を鳴らしながら鼻先を電車が通り過ぎていく。
その風圧で彼は数歩後ろによろける。
電車はあっという間に通り過ぎていった。
バランスを失ったTは思わず後方に尻もちをつく。
心臓が早鐘のように激しく脈打ち、彼はしばらくそのまま動くことが出来なかった。
なんとか持ち直し立ち上がる。
そして改めて正面を見た時は、もうあの三人の姿はなかった。
※※※※※※※※※※
乗客の姿も疎らな地下鉄の車内で、Tは長椅子にもたれかかるようにして座っている。
正面の暗い車窓に映る自分の顔をぼんやり見ながら、さっきホームで見た不思議な光景のことを考えていた。
彼はしばらくそうしていたのだが終いには「やっぱりあれは幻だったのだろうな」と諦めたように呟く。
その時だ。
突然正面に見える車窓が黄金色に淡く輝きだすと、まるで8ミリの映写機が回るかのようにセピア色の光景が動き出し始める。
それは幼い頃の様々な懐かしい光景。
下町で鉄工所を経営していた頑固な職人気質の父。
そしてそれをささえる人情深く気丈な母。
タイトルが秀逸
コメントありがとうございます。
─ねこじろう
物悲しい話。
やっぱり温かい家庭っていいな。
長期間孤独に身を置くと幻覚まで見えるようになるのかもね。
ぽっぽや見た時と近い感情になった
暖かみがあると感じさせつつさり気なく救いのない、いや救われる? いや、なんだろう.やはり救いのない、だからこその不条理系怪談、ということなのかな。
コメントありがとうございます。
─ねこじろう