【あの頃の怪談①】1999年
投稿者:綿貫 一 (31)
これは、おっさんのくだらない昔ばなしだ。
それでもよければ、聞いてくれ。
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1999年7月。
90年代当時、それは、特別な意味を持つ日付けだった。
世界が滅亡するかもしれない――。
多くの人が「あり得ない。この後も当たり前の日常が続くだけだ」と思いながらも、「それでも、もしかしたら……」という、一抹の不安と不謹慎な期待感とを、同時に持ち合わせていたんじゃないかと思う。
『1999年7の月、
空から恐怖の大王が降ってくる。
アンゴルモアの大王を蘇らせ、
その前後、マルスがほどよく統治する』
ノストラダムスの大予言――。
16世紀フランスの医師・ノストラダムスの著書である『予言集』という四行詩集の、最も有名な一篇である。
世界の終焉を予感させるこの詩は、人々の興味を大いにかき立てた。
空から降ってくる恐怖の大王とは、いったい何なのか。
隕石?
核ミサイル?
未知の病原菌?
それとも、宇宙人の襲来だろうか。
テレビ局は次々に特番を組んだし、出版社はこぞって関連本を出版した(『MMR』なんて漫画もあったなぁ……)。
とにかく、マスコミは大いにこの「ネタ」を利用したし、消費者は喜んでそれらを享受した。
今の若い人に、「ノストラダムスの大予言って知ってる?」と尋ねたら、いったいどのくらい、「YES」という答えが返ってくるだろうか?
たとえ、知識として識っていたとしても、リアルタイムで体験した人間でないと、あの時代の空気までは想像できないだろう。
折しも世紀末。
「遠い未来」とされていた21世紀が、今や目前に迫っていた。
急速に発達する科学技術。
それでも世界各地では、あいかわらず国同士の戦争が続いていた。
時代の狭間で、様々な期待と不安が渦巻いていた。
そんな中で、かの「大予言」は人々の心を魅力した。
大人も、子供も、科学者でさえも、誰もが心の片隅で予言の真偽を気にしていた。
おそらくは、この日本――いや、世界にとって、近代史上、最も「オカルトに夢中になった瞬間」だったのではないだろうか。
綿貫です。
それでは、こんな噺を。