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妖怪・風習・伝奇

太山みせるさんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

屋根裏の蛇女
長編 2023/12/31 00:22 8,178view
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まず、何を訊いても「シューシュー」としか言わない
また日常的に目を大きく開き続けようとするし、移動は極力這って行う
そのうえ生卵を殻ごと食べるし、白い着物しか着なくなった
婚家に捨てられたショックで一時的におかしくなったと思われていたが、いつまで経っても治らない

もしかしたら蛇に取り憑かれたかもしれない!そう思った家族は拝み屋を呼ぼうとした

「待って下さい。私は蛇に取り憑かれてなんかいません」
慌てた千代は、やっとまともに喋った
だったら何でこうなった?と家族に詰められ、千代はすべてを話した

※※※

千代は婚家で虐められていた
嫁いだ日から姑に日夜ネチネチ言われ、ふた月もすると舅や姑から毎日、子供はまだできないのかと責められるようになった
大人しい千代は言い返せなくて黙っていると、小姑たちも悪乗りして千代を虐めるようになってきた
夫も優しいのは最初だけで、庇ってくれなくなった
それどころか千代に飽きたようで、家に帰らない日が多くなっていった
あちこちで浮気をしていたのだ

千代は虫が苦手だった
そのことを知った意地悪な姑が、千代の茶碗に虫を入れるようになった
気がついたら取ってはいたが、ある日ムカデの死骸を入れられた時には恐ろしさで震えた
他の家族はそれを笑って見ているだけで、誰も助けてはくれない
そのようなことが続いたある日、千代は蛇になることにした
虐められ続けて精神がおかしくなったのか、本気で蛇になろうとしたというのだ
最初は、モノマネから始めた
卵を生のまま飲み込んだり、なるべく瞬きをしないようにした
受け答えも人語の代わりに「シュー」と言うようになり、這ったりもした
苦手な虫は、『蛇なら虫を食べる、私は蛇だ』と念じて食べた
婚家からは気味悪がられ、嫁いで2年が経とうとした頃、とうとう追い出された

「だから、私は取り憑かれてはおりません」
そう千代は言った
ならば、何故?
「もうお前を虐める者はいない。何でまだ蛇のマネをしているのだ?」

当然の疑問だ
しかし千代は、
「私、蛇になろうと思うのです」
と言った
「なれる訳ないだろう!」
どんなに無理だと言ったところで、千代は納得してくれない
曾祖父も、
「こんな姉がいたら自分は結婚できないかもしれない!いい加減にしてくれ!」
と怒鳴った
「そうですね、家族に迷惑は掛けられません。では私は、どこかの蛇神様の妻になろうと思います」
「どうやってなるのだ?神社に行っても、いるのはただの神主くらいだぞ」
「……では私を、蛇神さまの生贄にどうぞ差し出して下さい。どこでも構いません」
「そんなもの、どこも募集してないぞ!」
「……ではどこかの蛇神神社で、蛇の修行をしながら、蛇神様の妻に選ばれるのを待つことにします」
「どこに行っても迷惑なだけだ!そんなものにはなれん!」
だが千代は譲らなかった
家族は頭を抱えた

2/4
コメント(5)
  • kanaです。待ってました!!太山さん!!

    2023/12/31/01:47
  • 文書力が凄い。
    面白かったです。

    2023/12/31/02:03
  • 怖いというより、面白い。ラストがね。

    2023/12/31/21:13
  • 有難うございますm(_ _)m
    今年も宜しくお願い致します

    2024/01/01/15:55
  • 悲しい物語であり、暖かい物語でもある。
    ありがとうございます。

    2024/07/20/22:44

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