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妖怪・風習・伝奇

太山みせるさんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

赤い水
短編 2023/12/21 13:53 3,708view
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「あの…、帰り道を教えて下さい」
少女はその後、何度も帰り道を訊いたが、幽霊は同じように身の上話を繰り返すだけだった

(仕方がない、他の人を探そう)
歩き去ろうとした背に、幽霊は言った
「ここは地獄だ。地獄と認識したら地獄になる」

怖くなった少女は暗闇の中、走って逃げた

渋い顔をした中年の拝み屋がいた
目の前には依頼人の夫婦がいる
「どうでしょうか?私たちの娘は成仏できましたか?赤い水を飲んで死んだなんて、そんな不審な
死に方をして、あの子は天国に行けるのでしょうか?」
両親の問いに、拝み屋は益々渋い顔をして、
「お嬢さんは、地獄に落ちたようです」

顔を顰めて呟いた

少女は今なお暗闇を彷徨っていた
(あの幽霊は地獄に落ちたと言ってたけど、同じ場所にいる私も地獄に落ちたということなの?)
周りは真っ暗で何もないのに、ここは本当に地獄なのだろうか?

地獄といえば、お寺の本堂に飾ってあった地獄絵のように、血の池や針の山が思い浮かぶ
だがここには何もない

誰か!誰もいないの?寂しいよ!
何もないの?
(もしかしたら、まだ地獄の方がマシかもしれない!そうだ、私も地獄に行って誰かを見つければ良いんだ!)
と少女が思ったとき、目の前の光景が変わった

真っ暗闇が真っ赤になって、燃えさかる空、煮えたぎるマグマ、苦しむ大勢の人の苦鳴…
半裸の痩せこけた亡者たち、頭が人間で体が動物の半人半獣たち…

とある場所で、一人の老僧が死出の旅に出るところだった
彼は僧侶としての階級は高くはなかったが、とても立派で誰からも尊敬されるような人物で、多くの人を救ってきた

大勢の人たちに囲まれて、惜しまれて大往生を遂げようとする時、
「これから地獄に行こうと思う」
と静かに言った
周りは驚いて、
「何を仰るのですか!天国に行って下さい」
と口々に言い出した
しかし老僧は、
「地獄に落ちるのではない、行くんだよ。行って落ちた人たちを救ってくるのだ」
そう言って
息を引き取った

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