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妖怪・風習・伝奇

ねこじろうさんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

変化【へんげ】
短編 2023/12/01 18:31 4,407view
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─奥のやつ、いったい何やってんだ?

俺は喉裏に心臓の激しい拍動を感じながらもゆっくり個室を出ると、足音のしないように室内奥に歩を進める。
パタパタという耳障りな蛾の羽音も大きくなってくる。
少しずつ近付いてくる奥の個室。
それと同時に狭い個室内が徐々に視界に入ってきた。

そしていよいよ、、、

「えっ!?」

一瞬で全身に戦慄が走った。

個室の真ん中に、

無数の蠢く蛾で覆われた男が立っている。

蛾に埋まったその顔から覗く2つの瞳は大きく見開き、恍惚とした表情で独り言を繰り返しているのが見てとれる。

無数の蛾たちは餌に群がる小魚たちのように、男の白くか細い身体に忙しなく留まっては離れ、離れては留まっている。

男は俺に気がついたのか瞳をこちらに向け嬉しそうに微笑むと、右手をゆっくり上げながらユラユラと近付いてきた。

「うわっ!」

俺は一つ大きく悲鳴を上げると、ダッシュで後方へと走る。
それからトイレを飛び出すと、一目散に自宅へと向かった。
※※※※※※※※※※

翌日から俺はジョギングを止めた。

コースを変えて続けようかとも思ったが、なんだかやる気が失せてしまったのだ。

それよりも最近、身の回りでおかしなことが起こるようになってきた。

朝起きた時、天井にデカイ目玉柄の蛾が留まっていることから始まり、それからは夜外を歩いていると頭上を数匹の蛾が飛び交っていたり、追っ払っても追っ払っても体に留まってくるようになってきた。
この間とか外でご飯を食べていると、いきなりスープに蛾が飛び込んできた。

彼女に相談しても、単なる偶然じゃない?と軽く受け流されてしまった。

だが、
今朝のことなんだけど、、、

額の辺りがモゾモゾとして気持ち悪かったので目を開くと、
いつの間にか顔にたくさんの蛾が留まっており、今までなら飛び起きて必死に手ではらっていたのが、今朝は何というか優しく包まれたような良い気分になった時には、自分の中に既にただ事ではない変化が進行していることを感じた。

【了】

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関連タグ: #トイレ#声#石#絵画
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