変化【へんげ】
投稿者:ねこじろう (147)
最近、夜に走っている。
この話は、そこから始まる。
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きっかけは彼女から「ちょっと出てきたね」とクスッと笑われて下腹をポンポンと叩かれたことだった。
その日も仕事から帰ったらすぐジャージの上下を着て玄関に向かった。
ドアを開くと、
秋の到来を伝える冷たい風がサッと額を掠める。
敷地を出てから、古い住宅に挟まれた路地を黙々と走りだした。
しばらくすると呼吸は荒くなり、心臓の激しいテンポを感じだす。
何度か曲がり角を曲がると、前方にいつもの公園の入口が視界に入ってきた。
○○公園と刻まれた石造りの門の間を軽快に通り過ぎる。
役目を終えた砂場やブランコを横目にしながら、奥まったところに進んで行った。
それから林立した木々に挟まれた遊歩道を、点々とある街灯を頼りに走っている辺りで便意をもよおしてくる。
─確か、この先に公衆トイレがあったな
と焦りながら前方に視線をやると、街灯に照らされた灰色の小さな建物がポツンと寂しげにあった。
少しスピードを上げて出入口までたどり着くと、右手にある男性用に駆け込む。
プンと嫌なアンモニア臭が鼻をつくとともに、陰鬱な空間が視界に飛び込んできた。
タイル張りの汚れた床には、誰が脱ぎ捨てたのか洋服や下着が散乱している。
頭上からパタパタという羽音が聞こえてくるので、ふと見上げると、地味な目玉の柄を背負った蛾が数匹蛍光灯と戯れていた。
「なんだか小汚ないトイレだな」
などと思いながら室内を改めて見ると、
左手には小便器が3つ、右手には同じく個室が3つあった。
手前の2つは開いているが、一番奥は閉じているようだ。
─誰か入ってるのかな?
などと思いながら一番手前の個室に入った。
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なんとか用を済ませ便座に腰かけたままほっと一息つき前を見ると、変な落書きがある。
ロン毛で目玉のギョロギョロした全裸の男の変な絵。
背中には目玉柄の羽がある。
絵の横には「モスマン」とへたくそな字で書かれていた。
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