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呪い・祟り

prudence1968さんによる呪い・祟りにまつわる怖い話の投稿です

生えていたもの
短編 2023/10/28 22:08 3,441view
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先日、仕事でG県内のある地域の山林へ行った。
山林内を流れる沢の水質調査の仕事だった。
調査地点が多く、最終地点に取りかかる頃にはほとんど日没で薄暗くなってしまった。
他の調査地点と同じく、その最終地点も、そこまで行くための林業用の作業道はおろか獣道さえなく、山林の斜面を下って行った。
調査地点に着いて作業を始めたのはいいが、小用を足したくなった(細かい作業とかしてイライラするとトイレに行きたくなるアレ)。
朝5時に起床してトイレに行ったっきりだったので、そろそろ限界だった。
たまらず、沢の近くで小用を足し始めたが、すぐに「しまった、こんな所でしたら山の神様に怒られるに違いない」と思った。
が、出し始めたものは止められない。

その後、何とか作業を終わらせ、車を置いてある場所へ戻ろうと、下りてきた斜面を上り始めた。
ただでさえ薄暗いのに山林内はさらに暗く、足元がおぼつかず、下りてきたルートもどこか分からない状況だった。

しかも、1時間ほど前から雨が降っていて、斜面も滑りやすくなっていた。
こんな時間になると思っていなかったので、会社からライトも持ってきておらず、暗い中をあせって上って行った。
左手には調査用具を持ち、足元が滑って転ばないよう右手は細い木をつかむようにしていたため、スマホは胸ポケットに入れてほんのりライトにしていた。

途中、斜面が少しきつい所があった。
行きにはそんな所はなかったので、やっぱりちょっとずれたルートを戻っていたようだった。
そういう所に限って、つかめそうな木がなく、立ち止まって「あっちから回ろうか」とか考えていると、右手でつかめそうな所に白っぽい何かが生えていることにふと気づいた。
暗くてそれが何かよく見えなかったが、違和感があったので胸ポケットのスマホを出してライトで照らすと、真っ白な人間の手首から先だった。
上りたいなら手を貸すよ、みたいな。
ギョッとしてのけ反った瞬間、バランスを崩して足元が滑り、そのまま腹ばいのかっこうでスマホを落としながら2、3m滑り落ちた。
腹ばいのまま「人間の手のはずはない、あせっていて茸何かを見間違えたのだろう」と、少し我に返り、「もう1回確かめよう、人間の手だったらそれはそれで通報モンだ。」と思い、めちゃくちゃ嫌だったが、スマホを拾い滑り落ちた所をもう一度上った。

後悔した。
やっぱり茸とかじゃなく、人間の手にしか見えなかった。
しかし、通報モンではなかった。
さっきは手首までだったのが、今は肘くらいまで出てきていたから。

「ゔぃ」とか何とか自分でも訳の分からない声を上げて、斜面下へ逃げた。
逃げたというか、ずるこけてまた滑り落ちる感じだったが。
斜面下で、どう動こうか悩んだ。こうして悩んでいる間にも、きっとあの手はもっと伸びていて、下手をしたら体ごと出てきているかも知れない、このまま上がるのは危険だ。
でも、回りこんで行くとどこにどう出るか分からず遭難するかも知れず、別の意味で危険だ、とかグルグル考えた。
同時に思ったのは、用を足したことに山の神様が怒っているに違いない、ということだった。
結局、調査した沢の上流が車を置いてある道につながっていることは分かっていたので、車まではかなり大回りだったが沢筋まで戻り沢の脇を上ることにした。
山の神様の怒りなら、どこを通ってもダメなものはダメだろうと思ったが、沢筋のルート上で手の持ち主に会うことはなかった。

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コメント(1)
  • 😱
    山は陽が落ちる前に帰らないと。

    2023/10/30/10:48

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