彼の問いかけに答えることなく、その人影はただじっとその場に立ち尽くしている。
そしてその目がようやくその姿を捉えた時、彼の背筋は一瞬で凍った。
それは白髪交じりの黒髪を無造作に伸ばした女。
そしてその2つの瞳には黒目がなく真っ白だ。
しかも首から下の身体は影のように真っ暗だった。
女はじりじり歩きながら、Sに近づいてくる。
彼は少しづつ後退していく。
そしていよいよ、その女が目前に迫った時だった。
恐怖のあまり彼は意識を失うと、その場にへたりこんだ。
※※※※※※※※※※
…………
「ねえ、起きてよ!」
N美の声でSは目覚める。
そして辺りを見回した彼は愕然とした。
その視界には、まるで火事の焼け跡のような光景が入ってきた。
周囲の壁はほとんど焼け落ちたかのように無くて、炭化した黒く太い支柱だけが数本立っているような状態だ。
焦げた床の上に横たわっていた彼はよろけながら立ち上がった。
傍らには真っ黒になった冷蔵庫と箱型テレビ。
2メートルほど前にあるぼろぼろのダブルベッドの上には布団にくるまったN美がいて、今にも泣きそうな顔で彼の方を見ている。
ベッドの向こうには焦げたバスタブがあった。
見上げると、雲一つない青空が広がっている。
Sはふらふらと歩いてN美のいるベッドまで行くと、ドスンとその端に座った。
そしてしばらく二人ただ呆然としていると、前方に立ち並ぶ林の間から忽然と作業着姿の初老の男性が現れた。
男性は怪訝な顔をしながら二人の傍まで近づくと「あんたたち、こんなとこで何してんだ?」と尋ねる。
男性はこの近くの部落の者ということだった。
Sは男性に、昨晩ここで起こった不思議な出来事の顛末を覚えている限り話した。
男性は彼の話を聞いた後しばらく何かを考えるような様子で腕組みしていたが、やがてこのようなことを喋りだした。
「あんたの言う通り、確かにここら一帯には怪しげなホテルが何軒かあったな。
ただそれは昭和の頃の話でな、元々はなんでも、他所の土地からふらりと来た胡散臭い女がここら一帯の土地を買い占めて営業を始めたみたいでな。
その女、なんやいつも派手な化粧と露出多めの真っ赤な服を着た、ちょっと変わったおばさんやったそうや。
なんでもバブルの頃不動産投資で大儲けしたと、えらい自慢しとったらしい。
それで数年はうまくやっとったみたいなんやけど、ある日ここらの平屋の中の一棟が火事になってな、そう、あんたらが今いるそこの棟や。
焼け跡からは、なんとホテルオーナーの女の遺体が発見されたそうなんや。
しかも一緒に若い男の首のない遺体が見つかったようでな、どうやら、ここの女オーナー、
金にものを言わせてホスト遊びにはまっとったみたいでな、普段から若い男をその棟に連れ込んでは楽しんどったみたいや。























ねこじろうさんの作品は本当に引き込まれるし、いつも楽しみにしてます。
ありがとうございます。
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彼女は、とりつかれてしまったのか((( ;゚Д゚)))