山あいのラブホでの一夜
投稿者:ねこじろう (147)
そこは暗闇の中、鬱蒼と拡がる山林。
その手前辺りの道に沿って怪しく灯るアーチ型の電飾看板。
Sは速度を落とし車を左に寄せると、ゆっくり走り出した。
看板には「LOVE SPOT こもれび」という文字がピンクの光を発している。
「こんなとこにも、あるんだ」
感心し呟きながら彼はゆっくりハンドルを左に切り、アーチ型の看板の真下を潜り進む。
そしてしばらく両側に木々の迫る狭い山道を走ると、やがて道が開け草地が広がった。
そこでSは車を停め、ヘッドライトで前方を照らす。
手前には「LOVE SPOT こもれび」と書かれた木製の立て看板があり、その後方にロッジ風の平屋の建物が数軒疎らにあるのが見えた。
「ここ、やってるのかな?」
ハンドルに顎をのせたまま、ぼそりとSが呟く。
「ここ何だか気味悪いよ。もう帰ろうよ」
N美が不安げな顔でSの顔を見る。
彼女の言葉が聞こえているのかいないのか、彼は無言のまま再び車を動かしだす。
悲しいオスの本性だけがSを突き動かしているようだ。
点々と立ち並ぶ、ピンクの屋根に白い外壁の建物の間をぬって、ゆっくりと進んでいく。
パキパキというタイヤが枯れ木を踏む音だけが、やけに車内に響いていた。
そしてふと前方に視線をやったSが思わず「あっ」と声をあげた。
そこは凡そ50メートルほど前方辺り。
暗闇の中、「空室」の二文字がボンヤリ青白く光っている。
彼は慎重にハンドルを操作し、そのコテージの真横に車を停車した。
Sがエンジンを切ると途端に、N美が「わたしはこんなとこ、入らないからね」と険しい顔で呟く。
「じゃあ、ここにいろよ」
そう冷たく言い放つとSは運転席のドアを開き、さっさと外に出た。
慌ててN美も「ちょっと待ってよ」と言いながらドアを開き外に出る。
月明かりを頼りに彼は歩くと、その平屋建物入口前に立つ。
ねこじろうさんの作品は本当に引き込まれるし、いつも楽しみにしてます。
ありがとうございます。
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彼女は、とりつかれてしまったのか((( ;゚Д゚)))