今際の際
投稿者:竹倉 (9)
短編
2023/08/19
19:26
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『この人は亭主関白で昔っから本当に苦労させられたのよ。』
とケラケラ笑って話せたらしいから、肝っ玉奥さんだったんだな。
Tから見てもとても和やかな夫婦だったそうだ。
そんなKさんの様態が急変したのは、とある日の明け方の事。
急遽家族が呼ばれ、看取りの様相を呈しており物々しい雰囲気に包まれていた。
「奥さんもね、気丈にはしていたみたいっスけど、亭主がもうダメだということは分かってはいたみたいっス。」
そうTは言う。
「Kさんくらいの年代の方って、俺等と違って伴侶に感謝の言葉をかけたり愛情表現が苦手な方が多いんスよ。照れくさいのかな。」
Kさんは奥さんに何か伝えようとしている。
これまで言えなかった妻への礼の言葉。
愛しているといった愛情表現。
力一杯声を絞り出そうとする最後の精神力。
今際の際に溢れ出るであろう、感謝の気持を考え、Tの目からも涙が溢れ出す。
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で、Kさんは奥さんになんて?
「はぁ…。」
歯切れの悪い返事だ。
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