【蕎麦屋の幽霊事件】-事件記者 朽屋瑠子-
投稿者:kana (217)
「でもねぇお二人さん、幽霊出るのはまだ先かなぁ~。いつもね、最後のお客が帰った後に、
ひたひたやってくるんですよ。ほらまだ蕎麦20食分は残ってるから、これハケないと幽霊は出てきませんからね。深夜になるかな~~・・・」
「えぇ~・・・デスク、20食くらいいけますよね、その腹なら」
「おまえさんね、わんこ蕎麦じゃないんだよ、あと余計なお世話じゃ」
「う~~ん・・・じゃあ・・・」ずずずーっと一気にそばをかっこむと、どんぶりを店主に返しながら「ごちそうさま、それじゃ私が呼び込みしますから!」と朽屋が表に立った。
「かけ蕎麦~いかがですか~おいしい蕎麦だよ~・・・本場信州で採れた蕎麦の実だけを使って、石臼でゆ~っくり挽いたそば粉だから、香りがぜんぜん違う本物の蕎麦だよ!」
朽屋はとりあえず、店主の横にあったそば粉の袋に書いてある文句などを参考にしながら呼び込みを始めた。
「ちょっと、そこのおじさんたち、飲んだ帰り? 締めに蕎麦はいかが? 脂っこいラーメンは控えて、健康なお蕎麦にしていきません?」
編集長もそれに乗っかる。
「おおー確かに美味いわ、このつゆもイイ味してんねぇ~ しょっぱさと甘さとダシの香りと、絶妙だよ!! それに手打ちだってね!」と大声でサクラを演じる。
「・・・じゃあちょっと食べていくか」「おぅ、いいね」さっそくサラリーマンが捕まった。そこからOLのお姉さん方、パチンコがえりの青年などなど、ちょっと行列ができはじめる。
しばらくあわただしく動いていた店主のおやじが、朽屋にストップをかける。
「おねぇちゃん、この辺でストップだ~もう最後の蕎麦だぁ!」
いつのまにか独自のお蕎麦ダンスを踊りながら呼び込みをしていた朽屋がピタリと止まる。
「ありがとうございました~これにて完売でーす!また明日よろしくおねがいしま~す」
朽屋のダンスを見ていた男性客陣から拍手が起こった。
「あっ、どうも、どうも・・・」ぺこぺこする朽屋。
「いや~びっくりだよおねぇちゃん、どうだい、よかったらウチで働かないかい?」
「ええ~~ほんとですか~?・・・モーの原稿料も安いし、考えちゃおうかなぁ~」
ゲフンゲフンと咳払いするヴィンセント三上。
「ところでおやじさん、いよいよ最後のお客も帰ったわけですが・・・でもまだ蕎麦の束が一つ残ってますよね。いいんですか?」
「しょうがない。ここまでしてもらっちゃあ、あんたらを手ぶらで返すわけにもいかんしな・・・この最後に残った蕎麦は、幽霊のために残してあるんでさぁ・・・」
そこから店主は、その幽霊になった男の話をして聞かせた。
(※詳細は【蕎麦屋の話】を参照)
店主が蕎麦屋としてやっていくことに挫折して、あきらめかけていたその晩、客として一番最後にやってきた一人の中年オヤジに「これだよ、蕎麦は、これこそ本物の蕎麦だよ」と賞賛されたことをきっかけに、再び蕎麦の道を歩もうと決心した店主。
だがその後、中年オヤジは電車に飛び込み人生を終わらせたという。
「へぇ・・・人を助けて自分は逝っちまうとは、なんとも切ない話だねぇ。で、その中年オヤジが幽霊となって毎晩現れると?」
「そうなんですよ。あっしはせめてものお礼と思って、その方に毎日1杯だけ蕎麦を残してるんですけどねぇ・・・まぁお供えみたいなもんです。・・・さて、そろそろ来る頃ですかね・・・と言っても、霊感の無い方には見えないと思いますがね」そう言いながら最後のそばを茹で始める店主。
雑踏の中から、まっすぐにひたひたと屋台に向かってやってくる足があった。
朽屋はそれを敏感に感じ取っていた。
周りの風景が一瞬一段階暗くなるような気さえする。一種の結界のようなゾーンだ。
kamaです。いつも読んでいただきありがとうございます。
今回、朽屋瑠子シリーズ9作目は、珍しく前作【アジサイ事件】の続きとなりました。
【アジサイ事件】のコメント欄で、以前書いた蕎麦屋の話の解決編も読みたいというリクエストをいただきましたので、急遽、他のネタは後回しにしてこちらを書かせていたただ来ました。
いかがでしょうか。蕎麦屋の話、解決編でした。
また次回もよろしくお願いします。
いつもの恐さと違い、ハッピーエンドで良かった。ダンスを踊る瑠子がバズっている、その後の話も読んでみたい!
クッチャルコシリーズの大ファンです!瑠子ちゃん可愛すぎる。今回の話はほっこりする癒し系の話でしたね。次回作も期待してます。
↑kamaです。コメントありがとうございます。大ファン宣言うれしいですねー。きっと朽屋も大喜びしていることでしょう。
毎回涙誘う大変ええ話を投稿ありがとうございます。特に三上と朽屋のやり取りがこの話を引き立てて良いです。
↑kamaです。コメントありがとうございます。ヴィンセント三上について今後朽屋とどのようにして出会ったかというお話も準備しようと思っている所です。いつか書こうと思いますのでお楽しみに。
朽屋瑠子シリーズはキャラたちが勝手にどんどん話を進めていくので書いてる自分も楽しいです。
ここで書くよりカクヨムとかに投稿したほうがいいんでない?