約束が違う
投稿者:ねこじろう (147)
「今回の飛び込み自殺も頼まれたのか?」
明石がこめかみを押さえながら聞いた。
「はい、確かに頼まれました。
ただ死に方が違っていた。
約束と違っていたんです。
都内の会社に勤めるベテランOLの方でした。
不倫関係の縺れにもう疲れたと言っておりました。
彼女は睡眠薬でと言ってたんですが、突然電話があって、今から逝きますと……
慌てて今どこにいるんですか?と聞いたら、F駅そばの踏切と言われて……
ちょっと待ってくださいと言ったんですが、ダメでした…」
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「それで、あの現場にいたんだな、「頭」を抱いて」
「……はい。
さすがにあの状態だと無理と思ったのですが、約束もしてましたし、ある程度まとまったお金もいただいていましたから、、、
警察や鉄道関係の方々が線路上で懸命に作業をしているところに私も紛れて、必死に探しました。
服装も今着ています紺の作業着を着て、ばれないようにしました。
そしてようやく『頭』を見つけると抱え、見つからないように草むらの陰に隠れました。
そして血まみれの女性の頭部を地面に置くと、まずこびりついた血を丁寧に拭き取り、いつもの通り髪を整え丹念に化粧をしてあげました。
出来るだけのことはしてあげようと思って……」
そこまで言うと木村は、机に顔を埋めて嗚咽を上げ出した。
「ウウウ、、、、、、
わたしは、わたしは嫌だった。
本当は嫌だったんだ、、、
でも、あの方たちの一途な目で見られたら、、、」
※※※※※※※※※※
木村が篠原に連れられて取調室から出て行った後、明石は考えていた。
─あの木村という男、たいした罪にはならないだろう。
自殺を手助けしたわけではないし遺体を隠したり損傷させたわけでもない。
ただ遺体の身なりを整えて化粧を施しただけだ……
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