夢と現実の狭間に漂う狂気(加筆訂正版)
投稿者:ねこじろう (147)
二人とも顔には既に生気がなくて青白く、数匹の小バエたちが肩や顔に止まっては離れている。
壁際の大型テレビでは、若く元気な男性が今日の天気を明るい調子で紹介していた。
テレビの前の絨毯の上には乾いた血の付いた包丁が落ちている。
その周辺には何枚もの新聞紙がくしゃくしゃになって散らばっていた。
やがて食卓テーブルの上には朝食が並べられた。
いつもの目玉焼きクロワッサン、そしてコーヒー。
信子も一緒にイスに座る。
「さあ、早く食べないと間に合わないわよ」
目の前の二人は先ほどの姿勢のまま全く動かない。
彼女はしばらく二人を交互に見て一つ大きくため息をつくと、おもむろに口を開いた。
「そう…そうよね…
あなたたちはいつもそうやって、わたしを無視するのよね……。
分かりました!
もう会社にも学校にも行かなければいいわ。
何時までもそうしていればいい。
わたしは知りませんからね!」
信子は突然立ち上がるとテーブルの上にある熱いコーヒーを目の前の夫にぶちまけ、カップを床に叩きつけた。
大きな音とともにそれは見事に割れ、破片があちらこちらに飛び散った。
白いワイシャツの胸元は茶色に染まり湯気を上げている。
彼女はテーブルの上に顔をうつぶせると、大声で泣き出した。
だが相変わらず夫はただひたすら天井を見上げ、娘はテーブルに顔を埋めていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
玄関に置かれた固定電話が鳴り続けている。
やがて、それは留守電に切り替わった。
女の機械的で冷たい声がする。
─ただいま留守にしております。
ご用件をお願いします。
ぴーーーーーーーーーーー、、、
「もしもし、あの酒井さんですか?
こちらS社なんですが。
ご主人が今日もまだ出社されないんですけど、3日めです。
折り返してご連絡お待ちしてます」
面白かったです