夢と現実の狭間に漂う狂気(加筆訂正版)
投稿者:ねこじろう (147)
「酒井さん!!」
男のピシャリとした声が信子の話を遮る。
彼女はビクッとして話を止めた。
そしてまた、せわしなく前髪を引っ張りだす。
「残念だけど、あなたの前に座っている私もあなたも夢ではなく現実なんです。
そして、あなたがご主人と15歳の一人娘を包丁で殺したのも厳然たる事実なんです!」
「夢なんです。
全部夢に決まってるんです!
だって、わたし前にもそんな夢を見たことがあるんです!」
「そんな夢というのは?」
「主人や子供を殺す夢です。
その時も今回と同じように、包丁で刺したときの手応えを感じましたし、顔に付いた血の生温かい感触も錆び臭い匂いもありました。
それでわたし、なんて恐ろしいことしたんだろう、と狼狽えて慌てて近くにあった新聞紙で傷口を押さえたりして、それはそれは全く現実そのものでした」
「それはそうかもしれないが、今回は間違いなく、あなたが現実の世界でやったことなんです」
男は少し声を大きくして断定するように言った。
「じゃあ先生、今のこの状況を夢ではないと証明できます?」
そう言って信子は目一杯大きく瞳を見開く。
その目は白目がはっきり血走っていた。
その時だ。
信子や男の姿は、まるでテレビの画面が乱れるように部分部分が見え隠れしだすと最後には周囲と同化するかのように薄くなっていき、やがて辺りは暗闇が支配した。
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…………
どれくらい暗闇は続いただろう。
突然ポツンと遠いところにボンヤリとした白い光が現れた。
そしてそれは徐々に漆黒の闇を侵食していく。
酒井信子はうなされながら目を開けた。
するとあみだくじのような白い天井が、いきなり視界に入ってきた。
彼女は額の汗を拭いながら、ほっとため息をつき起き上がる。
レースカーテンからは朝の陽光が部屋に射し込んでいた。
正面のクリーム色の壁にはムンクの「叫び」。
面白かったです