その途端、靴男が道着男に顔を向ける。
靴男「え? 宮地って俺だけど・・・」
道着男「え?」
靴男「え?」
鍋女「え?」
道着男「・・あの・・・これ・・・」
道着男は懐から寄稿文の書かれた手紙を取り出した。
靴男改め寄稿文男「あー、これね。俺が送ったやつだわ。あ、だから君ここにいるのか。なるほどね。いや、騙してごめんだわ。」
道着男「な、なんでそんなことを・・・」
困惑する道着男。
寄稿文男「そうだな・・これは俺の・・崇高な趣味なんだよ・・・」
達人は達人を知るという。
また同様に変人は変人を知るのだ。
道着男は、その言葉の意味を瞬時に察した。
道着男「そうでしたか。
実は僕も人に言えない趣味を抱えているのです。
それは廃墟で合気道の稽古をするというものですが、内容の差異はあれど、あなたは同志だったのですね・・・」
ここで鍋女は先程のダメージが無かったかのように、
悠然と立ち上がり、そして鷹揚に語りだす。
鍋女「アタシもまた 見ず知らずの人に靴を踏ませ、その人の家で鍋を作ることを生き甲斐にする変態女よ。
けれど誰かの作った趣味に自分が合わせる必要なんてないわ。
千人いれば千の顔があるように、本当の趣味というものは人の数だけあると思うの。
唯一に、自分だけがもつ趣味・・・
それこそが真に自分を活かすことができる、
崇高な趣味と言えるのではなくて?」
静まりかえる廃墟のなか
その日、偶然に巡り合った男女らは厚く抱擁しあった。
いつまでも・・・いつまでも・・・
それから数日後・・・
とある大学の合気道部に手紙が届いた。
『明誕大学合気道部現役部員のみなさん、日頃の稽古お疲れ様です。32期卒OBの宮地です。
さてみなさん、師範の道場には通われていますか?
部員同士の稽古は楽かもしれませんが、マンネリしてきていませんか?
道場で黒帯の人達と稽古をすることは大変かもしれませんが、技術の幅も広がるというものですよ。
もし、いきなり師範の道場に行くのが怖いのであれば、
いちど私の所属する合気道同好会に遊びに来ませんか?
もし興味があれば〇月×日、場所は〇〇県△△市××に来て下さい。
精神錬磨のため、あえて廃墟ホテルのようにしておりますが、ぜひぜひ勇気をもって入ってきてください。
そして稽古の後は美味しい料理をみんなで食べましょう。
シェフも腕を振るうと息巻いています。
その料理というのも、それはそれは美味しい鍋でして・・・』
何だか最後までわからない話ですね。