湖畔のキャンプ場の怪異
投稿者:セイスケくん (20)
大学のサークル仲間でキャンプに行くことになった。
夏の終わりの涼しい週末で、僕たちは人里離れた山奥の湖畔にある、あまり知られていないキャンプ場を選んだ。メンバーは僕、裕也、智也、翔、そして麻里の五人。
自然の中でリフレッシュしようと、皆でワクワクしていた。
到着すると、湖は静寂に包まれ、まるで時間が止まったかのようだった。古びた桟橋が湖に伸びており、その先には朽ちた小舟が一艘繋がれていた。
麻里が不思議そうに「あの舟、まだ使われているのかな?」と呟いた。翔が肩をすくめて「さあ、でも趣があっていいじゃないか」と笑った。
焚き火を囲みながら、裕也が湖にまつわる古い伝説を話し始めた。
「この湖、昔は村と村を繋ぐ重要な渡し場だったらしい。でも、ある嵐の夜に渡し舟が沈んで、渡し守と乗客全員が湖底に消えたんだ。
それ以来、夜になると彼らの霊が現れて、生者を湖に引きずり込むって話だ」
智也が苦笑して「またそうやって怖がらせようとしてるのか」と茶化したが、麻里は明らかに不安そうだった。
日が沈むと、湖面は闇に溶け込み、焚き火の炎だけが頼りだった。僕たちはバーベキューを楽しみ、翔がギターで下手くそな曲を奏でて皆を笑わせていた。
そんな中、裕也が立ち上がり「ちょっと桟橋まで行ってくる」と言った。
「一人で大丈夫か?」僕が尋ねると、彼は「大丈夫、星でも見てくるよ」と手を振って暗闇に消えていった。
しかし、裕也が戻ってこない。15分、30分と時間が過ぎ、不安が募る。
智也が「さすがに長すぎるだろ」と言い、僕たちは懐中電灯を手に裕也を探しに行くことにした。
桟橋に向かう途中、木々の間から冷たい風が吹き抜け、背筋が寒くなった。麻里が震える声で「早く見つけて戻ろう」と言った。
桟橋に着くと、そこには裕也の姿はなかった。しかし、湖面に目を向けると、小舟がゆらゆらと揺れていた。翔が「おい、あの舟に誰か乗ってるぞ」と指差した。
懐中電灯の光を当てると、小舟の上に裕也が立っていた。だが、彼の背後にはもう一人、古びた衣装を纏った男が立っているのが見えた。
その男は顔半分が水で濡れ、冷たい眼差しでこちらを見つめていた。
「裕也!」僕たちは叫んだが、彼は反応しない。
男が舟を漕ぎ出し、湖の中心へと向かい始めた。
智也が「まずい、追いかけよう!」と叫び、桟橋に繋がれていた別の小舟に飛び乗った。僕たちも急いで乗り込み、必死でオールを漕いだ。
湖の中央に近づくと、突然霧が立ち込め、視界が遮られた。周囲からはかすかな囁き声が聞こえ、「戻れ…戻れ…」と繰り返していた。
霧の中から突然、無数の手が水面から伸びてきて、舟を掴もうとする。麻里が悲鳴を上げ、僕たちは必死でオールを振り回して手を払いのけた。
その時、裕也の乗った舟が目の前に現れた。彼は目を閉じ、何かに取り憑かれたように呟いていた。「深く…深く…連れていって…」
背後の男がこちらを睨み、口元が不気味に歪んだ。
その瞬間、舟が大きく揺れ、裕也が湖に落ちてしまった。
「裕也!」僕たちは叫び、彼を助けようと手を伸ばした。しかし、水面には彼の姿はなかった。
絶望の中、突然湖底から無数の青白い顔が浮かび上がってきた。
彼らは目を見開き、口を大きく開けて無言の叫びを上げているようだった。
翔が「もうだめだ、戻ろう!」と叫び、僕たちは全力で岸に向かった。手は震え、心臓は激しく鼓動していた。
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