総務部・災害対策チーム班長はやっぱり早く帰れない

残業なしでまだ夕陽が沈む時間に帰れたある日のこと。
某駅のホームで電車が来るのを待っていたボクの目の前に、
突然、阿鼻叫喚の地獄絵図が展開した。

飛び込み自殺だ。

この駅は古い。いまだに転落防止用のホームドアなども無い。
そのため、自殺志願者も恐らくそれを判っていてこの駅を選んだのだろう。

しかもその死にざまときたら「ムゴイ」の一言に尽きた。

男はホームの端からスピードのまだ落ちていない先頭車両に飛び込み、
運の悪いことに走る電車とホームのスキマ数十センチの間に吸い込まれ、
まるで脱水機にでもかけられたように潰されながら猛スピードで回転し、

ホームにいた乗客たちに激しく血しぶきをまき散らした。

やっと止まった車両には、先頭車両から4両目辺りまで、
見たことも無いような大量の血がべっとりまとわりついていた。
車両と車両の間にあるカドの部分はとくに血しぶきがひどい。
明らかに自殺志願者がそこで削られた痕だ。

今、彼は4両目と5両目の間のホームとの隙間で、血まみれの頭頂部だけを出して止まっている。これでは頭蓋骨も割れているに違いない。生死の確認は必要なさそうだった。

この事件ではショックで倒れ込む人も数人おり、また逃げようとして転倒してケガをする人などもおり、駅ホームは文字通りの地獄絵図となった。

この時、ちょうどボクの目の前にいた女子中学生もショックのためか、
ストンと落ちるようにボクの足元に倒れ込んだ。

「大丈夫ですか?・・・もしもし、大丈夫ですか?」

何度か呼びかけるも応答なし。これは少しヤバイ。

ボクは近くの二人に「スイマセン、あなた、すぐ駅員を呼んでださい。あなたは念のため救急車を呼んでください。お願いします」と、指示を出した。
これだけの事件なので救急もすぐに大挙して押し寄せてくるだろうし、すでに駅員も異常事態を感知して動き出しているはずだ。だが、このような時に気を付けたいのは「これだけ大勢人がいるんだから、きっと誰かがやってくれるだろう」と傍観者になってしまうことだ。傍観してる間に危険な状態に陥る人もいる。ボクの足元に倒れた彼女がそうだ。

このような時は自分が動くだけではなく、かならず誰かを指して、役割をお願いして助けてもらうのが最善だ。我々日本人は、まじめで優しい人たちが多い。きちんとお願いすれば、多くの人が努力を惜しまず助けてくれる。ただ自らそれをする勇気がちょっとだけ足りないだけだ。

中学生の子を改めて見てみると、呼吸が止まっており、心室細動を起こしている可能性が出ていた。持病でも持っていたのだろうか・・・。今は考えている暇はない。

「やばいな・・・AED使ってみるか・・・」

ボクはすぐに彼女の気道を確保し、胸骨圧迫に入った。
強い力で、肋骨が折れてしまわない程度の力加減で、
テンポよく胸骨を押し、心肺蘇生を開始した。
よく勘違いされがちだが、この場合人工呼吸は必要ないというのが最近のセオリーだ。