白猫トビーの形見
投稿者:ねこじろう (147)
それはまだコンビニなんか無かったころのこと。
家の近くに小さな駄菓子屋がありました。
立て付けの悪そうな硝子戸はいつも開きっぱなしで、狭い店内は埃っぽくて奥には薄暗い土間があり、小上がりを上がると居住スペースがあります。
そして裏手にはこじんまりとした庭もありました。
直角に近い角度で腰の曲がった婆さんが一人暮らしながらやっており、しわくちゃの顔をさらにクシャクシャにして笑顔を作り、学校帰りの子どもたちを迎えてくれてました。
本当に仏様のように優しい婆さんでした。
兄弟がおらず両親と3人暮らしだった当時の僕にとって放課後でのこの店のひとときは日々の癒しの一つであり、もう一つは家で飼っていた白猫のトビーと遊んでいるひとときでした。
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婆さんの店にはお菓子やアイスクリームがたくさんありました。
特に生徒たちに人気だったのは、婆さん手作りの特製ハンバーガーです。
30円という破格の値段のわりに、肉が柔らかくて香ばしくてとても美味しかったのです。
なんでこんなに安い値段であんなに美味しいハンバーガーを提供できたのか?当時は不思議に思っていたものでした。
恐らく裏庭に秘密のキッチンがあるのでは?と友達と噂とかしてたのは懐かしい思い出です。
放課後お店を訪ねると、だいたい婆さんは椅子に座ってうつらうつらしているか、奥の庭でなにやら作業をしていました。
一度いつも通り店に寄った時に店内に婆さんが見当たらなくて、大声で呼んでも出てこなかったことがありました。
しょうがないから奥の土間から靴を脱いで畳部屋にあがり縁側から庭を見てみます。
申し訳程度の小さな庭の真ん中辺りには錆び付いた焼却炉があり、その左側には古ぼけた小屋がポツンとありました。
「婆ちゃん、、、」
恐る恐る声をかけた、その時でした。
小屋の扉が勢いよくバンと開き、中から婆さんが飛び出してきました。
割烹着姿の婆さんは何故だか右手に中華包丁を握り、恐ろしい形相で人の家に勝手にあがったらいかん!と叫びながら迫ってきます。
僕は「ごめんなさい!」と言って、慌ててその場から逃げ出しました。
あの時の婆さんの顔はいつもの優しい感じは微塵も無くて、まるで山姥みたいな恐ろしい形相で、今も夢に出てきたりします。
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そんなある日、
僕は母にひどく叱られたことがありました。
いたずらで白猫のトビーの目の回りに黒マジックで丸を書き、赤マジックでマニキュアのように爪に塗ったからです。
そのことがあった翌日からトビーがいなくなり1週間経っても家に帰って来なくて、自分のせいではないかと幼いながら僕は心が痛みました。
学校帰りにいつもの通り僕は駄菓子屋に寄って30円のハンバーガーをほおばりながら、いなくなったトビーのことを婆さんと話してました。
恐ろしい婆さんだ!
マクドナルドの猫ハンバーグか!
↑昔、マックにそんな風評流れたことありましたね(笑)