黒電話
投稿者:ねこじろう (147)
開け放たれた障子の奥には畳の間があり、真ん中に置かれた座卓を挟んで二人が胡座をかいている。
こちら側を向いているのは間違いなく、亡くなった親父だった。
とすると背中を向けているランニング姿の少年は、、、
「親父!」
懐かしさと愛しさと驚きの混ざった複雑な想いから、僅か10メートルほど離れたところに見える無精髭を生やした愛嬌のある赤ら顔に向かって、思わず声をかけた。
親父はちらりとこちらに目を向けると、前に座る少年に何かぶつくさ言い、またコップ酒を口につける。
すると今度は少年がこちらを振り向いたのだが、俺はなぜだかこの子には見られてはいけないような気がして、逃げるようにその場を離れた。
─あの頃の優しかった親父と、もう一度話したい、、、
そんな思いでさっきの電話ボックスに駆けこみ、ポケットから10円玉を出すと、迷わず実家の番号をダイヤルする。
しばらくすると、あのぶっきらぼうな声が聞こえてきた。
「ああ、もしもし、、、、、は?、、、おたく、誰?」
「あの、、、ええっと、、、」
感情の高ぶりからか早口になってしまい、うまく喋れない
そんな状態で俺は無理とは思ったが、必死に伝えた。
「だからさあ、もう酒は止めなよ!
でないと、あんた、60で死んでしまうよ」
「は?
あんた一体何の恨みでそんなこと言うんだ!?
酒?
俺は誰に何を言われようと、酒は止めないからな!」
電話はそこで一方的に切られた。
呆然と立ち尽くしていると、いきなり電話ボックスの外から強烈な光が差し込んできて、ボックス内の全てが真っ白く照らされた。
あまりの眩しさに目眩を感じ、その場にへたりこむと、そのまま意識を失った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
─お客さん、お客さん
若い男の声が聞こえる、、
目を開くと目の前に、制服姿の若い駅員が立っている。
「お客さん、もう終点なんで、すみませんが、降りてもらってよろしいでしょうか?」
言われた通り立ち上がると、開かれた電車のドアからホームに降り、誰もいない長椅子にドスンと座った。
見上げると、ちりばめられた宝石のような星たちが夜空に煌めいている。
泣きそうなラスト。切ない。