黒電話
投稿者:ねこじろう (147)
新幹線の新神戸駅に着いたのは、
ちょうど午後4時。
それから私鉄のローカル線に乗り換えて椅子に座って窓から海を見たとき、ダムが決壊するかのようにどっと疲れが押し寄せた。
電車の規則的な心地よい揺れと襲い来る睡魔で、いつの間にかうつらうつらと首を上下にしだしたときだ。
─ゴトン、、、
金属のぶつかり合う鈍い音がして、車両が大きく揺れた。
次の瞬間、車内が停電にでもなったかのように真っ暗になった。
それから車両は徐々に速度を落としていく。
─事故でもあったのかな?
振り返って窓から外を覗いたとき思わず「あ!」と、声がでた。
四角い窓は全て白い霧で覆いつくされていて、さっきまで見えていた海岸線がきれいさっぱり消えている。
「一体、これはどういうことだ?」
混乱した状態で椅子に座っていると再び車両は大きく揺れ、やがて停止した。
と同時に、大きな抜ける空気音とともに乗降ドアがゆっくりと開いていく。
アナウンスも何もなく、静寂だけが車内を支配していた。
立ち上がり、入口のところまで歩き、そっと外を覗いてみる。
そこは小さなプラットホームだった。
全長は僅か10メートルほどの本当に小さなプラットホームを、白い霧が蛇のようにうねうね漂っている。
見上げると空は不気味な黄金色の雲に覆われていた。
恐々ホームに降り立つと、ゆっくり歩きだした。
左手に階段があったので下に降りると、正面に小さな改札口がある。
自動改札ではなく昔ながらの改札だ。
だが人の気配はない。
改札を抜けると霧の漂う狭い道が左右に走っていたので、何となく右側の方を歩きだした。
白い霧のうねる細い路地の両側は、背丈ほどの垣根が続いている。
しばらく歩くと道は行き止まりになり、左手には四角い電話ボックスが怪しい光を放っていた。
ふと反対側に目をやると垣根越しに、大きな柿の木があった。
なぜだか懐かしい気分になったので、その柿の木のそばまで歩き、その立派な枝ぶりを眺め葉っぱを触っていると、垣根の向こう側から人の声が聞こえてくる。
枝越しに覗き込んだとき、思わず「あ!」と声をだした。
そこには昔ながらの庭木が広がり、その先には古い日本家屋の縁側があった。
泣きそうなラスト。切ない。