真夏の峠越え
投稿者:トット君 (1)
「やっぱり、このあたりに該当する住所は無いんだってよ」
「じゃあ、俊太の書き間違いってこと……?」
「さあな、送った手紙は住所不定で戻ってきてはないんだろう?」
「うん……」不可解なことだ。
「電話とかメール先はわからないの?」
「もとから俊太は携帯スマホを持っていない。自宅の電話はまだ未定だからと……」
「まあ、ひと先ず腹ごしらえだ。これどうぞ」
カフェで買ってきたホットドッグとアイスコーヒーだった。
大人だなと清さんの顔をまじまじと眺めながら、ホットドッグをほお張った。
美味いけど気持ちは落ち着かない。ここまで清さんにお願いして連れてきてもらったのに、何の成果もないからだ。
車のエンジンを切り、窓を開けた。
空調代わりに自然の風を求めるんだと偉そうに清さんは語っていた。本当は燃料代を惜しんでことだ。
アイスコーヒーを手にした時だった。
「ちょっと、お宅さん」白い自転車に乗った警察官が声をかけてきた。
窓越しに手をかけ怪訝そうにこちらに視線を向けている。どうやら警邏中らしい。
「ここは道が狭いから車を停めてくつろがないでよ」
「すみません。あっ、そうだ!ちょっと伺いたいのですがよろしいですか?」
清さんはすかさず俊太の住所を伝え訊ねた。
警察官は巡査長という名札を付けている。するとタブレットのようなものを出して検索し始めた。
「ああ、やはりな。いつものことだな……」と独り言ちの警察官。
「いつものって?」
「実は、ありもしない住所に安いというふれこみで住宅提供する詐欺が昨今増えていてね。この住所は、その詐欺集団が利用した住所と一致したよ」
「でも、送った手紙は返ってこなかったよ」ぼくは反論した。
「その住所宛に送られた郵便物は転送願いが出されて、別の場所へ送られているのさ。以前は人も寄らない空き家のポストだったこともある」
「じゃあ、俊太はどこにいるの?」思わず警察官に語気を強めて言った。
「俊太って、その書かれた住所にいるはずの人?」
警察官は一変して優しい物言いで訊いてくれた。
「それならば、家族はもう軽井沢にはいないだろうね。そうか……ちょっと、あんた、外で話そうか」警察官は清さんを呼んで外へ連れだした。
なにやら深刻そうな表情の二人。ぼくは蚊帳の外だった。
やがて話が終わると警察官は立ち去り、表情の曇った清さんが戻った。
早く成仏して欲しいです。
とても悲しい話でした。
怖い、せつない、感動すべてがこの中に入っている