真夏の峠越え
投稿者:トット君 (1)
中三の夏、ようやく一学期の期末テストも終えた日、ぼくは転校した友人、俊太の別荘に向かった。
父の車をあてにしたが、仕事で駄目だと言われた。前から約束していたのにと、ぼくは強引にせがんだ。
清さんが大学も休みだと父は親戚のいとこに連絡を入れてくれた。
出発までバタバタしたが7月下旬、ようやく出発となった。
清さんは二流の大学生だと自ら話す。就職も先は見通せないんだと出発当日の車内で長々と話していた。
行先は軽井沢駅に近い。
「それじゃ別荘というより一般住宅か店舗じゃないのかな」清さんは言いながら、持ってきたレジ袋から菓子やキャンディを出してふるまってくれた。
「どんな親友なんだい?」と訊かれてちょっとぼくは戸惑った。
勝手に親友と決めつけているのはぼくの方だから……。それでも「易しい奴なんだ。いたずら好きで、人を驚かすのが好きなんだ」と答えた。
俊太の第一印象はこんなものだ。たわいもなくガヤガヤしゃべって戯れていることがほとんどだった。
小学校の高学年で同じクラスになったのがきっかけだった。中学校も地元で同じ学校だった。
これから中学生活で互いにヒートアップだと確信していた矢先、俊太は親父さんの仕事の関係もあって軽井沢に引っ越すことになった。
急なことだった。
別れ際、月に一度は手紙のやりとりを約束した。でも、こちらから送っても一向に返事はない。
送付先住所に間違いはない。残念なことは電話やメールもわからない。後で伝えるという約束も曖昧なままだった。
今日訪ねることは、一週間前に手紙で知らせてある。日帰りだから気にしないでと大人的な文言も気づかって添えた。
やはり今回も返事はない。でも届いているのは確かだからと現地へ行くことを決めたのだ。
世間は夏休みで軽井沢の街は人通りで栄えていた。宛先の住居が見えてきた。
清さんが首をかしげてつぶやいた。
「おかしいな。ここに11丁目なんてないぞ。この先は林道だ。さらに先は来た道へ戻ってしまうよ。どうする?」
「それって、俊太の住所が無いということなの?」
「そうさ。無いというより、この住所はでたらめだ。いつ、教えてもらったんだい?」
「あいつが引っ越すとき、この紙っぺらに書いて寄越してくれたんだ」
「書き間違えじゃないのかねえ。きっと親友は間違えたんだよ」
「それじゃ、これまで送った手紙はどうなんだよ!戻ってこなかったんだよ」
清さんに食って掛かっても仕方がないことだった。
「俺が周辺に訊いてきてやるよ」清さんは街から出る手前で車を路側帯によせて停めた。
小さなカフェの店へ清さんはは小走りで向かった。女店員さんが身振り手振りで説明している光景が見えた。
清さんはそれに頷いているが、またもや首をかしげていた。話が終わると、店の中に入ってしばらく出てこない。
やがて再び小走りで清さんが車に戻った。
早く成仏して欲しいです。
とても悲しい話でした。
怖い、せつない、感動すべてがこの中に入っている