夜の訪問者

知人のA子さんから聞いた話です。
独身の頃、住んでいたのがオートロックなどない、訪問者が直接玄関まで来られるアパートでした。

夜の十二時過ぎ、そろそろ寝ようかと思っていると、玄関のチャイムが鳴りました。
こんな時間に誰？　と思っていると、チャイムとノックを繰り返します。

これ、ヤバイでしょと思いながら、息を詰めていると、玄関のドアの郵便受けが開き、
「ねえ、いるんでしょ？　明かりついてたよ、開けてよー」
と、中年らしい男の声が……もちろん知らない人です。

どちらさまですか、と言っても、開けて入れての一点張り。
「警察呼びますよ」と、相手に聞こえるように警察に電話すると、男は立ち去りました。

その後警官が来て、出来事を伝えると、

「戸締りをしっかりしてください」「パトロールを強化します」と、言っただけで引き上げていきました。

A子さんは、アロママッサージ店で働いています。
数日後、彼女を指名してきた、スーツを着たサラリーマン風の男性客がいたのですが、見覚えがなかったそうです。

どこで私のことを知ったんだろう、お得意さんの紹介かな、と思っていると、施術後、
「この間の夜は失礼いたしました」と言うのです。

え？　と思っていると、
「あなたのことを見かけて、とてもお綺麗な人だと思って、お部屋や職場を調べてしまいました。あんな失礼な訪問をするつもりはなかったのですが、少し酔っていたもので……」
と、笑顔で悪びれずに言われたそうです。

「それから一度も部屋に帰らずに、その時付き合ってたダンナの部屋に転がり込みましたよ、お店もやめましたし……ああいう人って自分がやっていることがおかしいって、本当にわからないんですね」
と、言って、寒そうに肩をすぼめました。