電話の向こうから
投稿者:take (96)
「あー……で、どうだったんですか」
「俺には聞こえなかった」
「そうなんですか」
「それで、確かめてもらいたいんだよ、『霊感持ち』のお前にな」
胸の中で溜息をつきました。
私は幼い頃から、人ならざる存在が見えたり、聞こえたり、感じたりする『霊感体質』です。
私の妹もそんな力を持っています。
ただ、あまり人に知られたくないので、他人に吹聴したりしません。
が、ちょっとした間違いで、この先輩にそのことを話してしまったのです。
絶対に他の人に話したりしないでください、と、釘を刺し、それは守ってくれているようですが、たまにこういう相談事を持ちかけてくるのです。
「でも、何度も言ってますが……」
「ああ、お祓いや除霊はできないんだろ、わかってるよ、そんなことを頼みゃしないさ。ただ音声を聞いて、おかしなものが聞こえるのかどうか、確かめてくれりゃいいんだよ」
いや、そういうことに一切かかわりたくないんですが、と思いつつ、
「わかりました」
と頷きました。
「でも、いいんですか、妹さんのプライバシーが……」
「そんな大したこと話しているわけじゃないよ、この間食べたあれがおいしかったとか、映画がどうとか、そんなもんだ」
そういいつつスマホをタップし、しばらく耳に当てていましたが、
「俺には本当になんにも聞こえないんだよなあ」
と、こちらに差し出してきました。
ちょっと頭を下げて受け取り、深呼吸してから耳に当てました。
女性と男性の会話が聞こえてきます。
この間、観に行った絵画展かなにかの話をしているようでしたが……。
その会話の向こうで、確かに赤ん坊の鳴き声が聞こえます、そして。
ざわっと鳥肌がたち、頭髪の毛穴がゾワゾワと蠢く感じに襲われました。
『許さない、許さない、私の子を返して、許さない……』
あきらかにもう一人、女性の声が聞こえていました。
私は思わずビクッと体を震わせ、スマホをテーブルに投げ出すように置きました。
「なんだ、どうした、やっぱり聞こえたか?」
先輩はスマホを手に取り、耳に当てようとします。
「ダメです、すぐに切って、早く!」
周囲の客が何事かとこちらを向き、先輩は慌てて音声を切りました。
赤ちゃんの声かあ・・・