しばらく震えが止まらず、手の甲をさすりながら呼吸を整えました。
「おい、なにが聞こえたんだ?」
先輩が不安げな表情で言います。
私はビールを一口飲んで喉を湿らせ、
「やばいです、赤ちゃんだけじゃないですね……多分その母親の声も……」
「……マジか」
「きっとその彼は、妹さんに真実を……いや、何か都合の悪いことを端折って話しています……それが何かはわかりませんが……」
流産して、体と精神を病んで、彼はなんとかしようとしたが力及ばず、彼女は田舎に帰った……本当にそれだけだろうか? それだけであんな激しい憎悪と恨みの念があらわれるものだろうか……。
それ以上、想像するのをやめました。
私の話を聞くと、先輩は重々しく、
「わかった」
と頷きました。
「それと、その音声はすぐ破棄したほうがいいと思います、万一影響が出ないとも限りませんし……」
「ああ、すまなかったな、ありがとう」
それから、先輩は妹さんにどう伝えたのか、どう説得したのかわかりませんが、彼との事はあきらめてくれた、と、聞かされました。
まあ、赤ん坊の泣き声が聞こえた時点で、大抵の女性は躊躇するでしょう。
先輩の妹さんが、女性の声を聞いてなくて、本当に良かった、と思います。
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赤ちゃんの声かあ・・・