電話の向こうから
投稿者:take (96)
さらに、
「赤ちゃんの鳴き声が一日じゅう聞こえる」
「あの子が私を恨んでいる」
と、半狂乱になることもしばしばでした。
彼はなんとか彼女をサポートしようとしましたが、力及ばず、彼女は退学して両親のもとに帰ってしまったのでした。
それからは、彼女の両親にも、もう会わないでくれと言われ、苦い別れになったのだといいます。
赤ん坊の声が聞こえる、なんて彼女の想像だと思っていたし、僕はこの世にそんなことはないと思っている、でも、何も知らないはずのR美さんまでがそんなことを言い出すと、もしかしたら、と思い始めている。
こんな僕だが、もしR美さんが僕を支えてくれるというなら、お祓いでも供養でも、なんでもしようと思う。すぐ結論を出さなくてもいいから、ゆっくり僕とのことを考えてくれないか、と言われたのです。
「と、まあ、そういうことがあったんだよな」
「はあ……なるほど」
居酒屋で向かいに座っている先輩は、私に酒を注ぎながら、ちらっと意味ありげに視線を寄越しました。
やれやれ、と思いつつ、
「で、妹さんはなんて言ってるんです?」
と、私が訊くと、
「それが……迷っているらしいんだ、どうもその男のことを憎からず思っているらしくてな」
先輩は肩をすくめます。
「いや、まあ男として、その彼の事情もわからんではないんだ、普通に女性と付き合っていると、誰にでも起こり得ることだしさ。しかし、R美の相手となったら話はべつさ、そんな過去を持つ男と付き合い続けて欲しくないし、ましてや結婚なんてことになったらなあ……」
「はあ、まあ……」
いまいち反応の薄い私に、不満だったのか、
「お前にも妹さんや姉さんがいンだろ、もし自分の姉妹だったら、どう思うよ?」
と、ちょっと身を乗り出してきました。
「確かに……いい気はしませんね、賛成はしかねます」
私が言うと先輩は、そうだろうそうだろうと頷きます。
「それでな、ちょっと聞いて欲しいものがあるんだ」
と、スマホを手に取りました。
嫌な予感がしつつも、
「なんでしょう?」
と言うと、
「妹がその彼氏と電話している時に聞こえる赤ん坊の鳴き声ってのが、本当なのかどうか確かめたくてな……妹に言って会話を録音させたんだ」
赤ちゃんの声かあ・・・